第3怖 釣ったもの
最近、会社の同僚に勧められて釣りを始めた。最初は仕掛けを作ることや餌であるゴカイなどを触ることもままならなかったが、慣れるとどうということはなく、だんだんとのめり込み日々のささやかな楽しみになっていた。あの日はその同僚と、東北の方まで釣りの遠征に行く予定であった。
車を深夜から走らせ、早朝には目的地に着いた。魚はもうそろそろ起きる頃なので、この時間帯がチャンスだ。早速仕掛けをつくり、竿をしならせ海へ放り込んだ。この日は食いつきがよく、いわゆる入れ食い状態だった。
「こんなに釣れると気持ちいいなあ!」
「ここは地元の人がよく使う絶好のスポットらしい。この間の取引先の人が釣り好きで、その人に教えてもらったんだ。なんでも、この辺りの出身らしい」
「ほえー。さすが営業成績二期連続トップだ」
「運が良かったのかもな。お、それよりほら、お前のとこあたってるぞ!」
「お、よっしゃ!これはでかいんじゃねえか!?」
中々に引きが強い。これはいいサイズが期待できそうだ。かれこれ格闘すること数分。ついにご対面、と思った瞬間、自分の目を疑うことになった。
「・・・なんだこれ。頭が・・・二つある?」
「・・・その前に、・・・魚なのか?こいつ」
一緒に見ていた同僚も、開いた口が塞がらない。無理もないだろう。
頭が二つ、目は三つ。胴体はドス黒い鱗で覆われ、尾鰭の下の部分だけ、異様に長い。そして何より、とにかく臭い。まるで自分がドブの溜まった下水道に放り込まれた感覚だ。思わず2人とも鼻を摘んだ。
「あ・・・ああ・・・お前ら・・・なんてことだ・・・」
突然、後ろからしゃがれた声が聞こえた。
「・・・逃げろ。今すぐ!ここから!!」
そう聞いた途端、魚だと思われるものが勢いよく跳ね出した。と、同時に、地面がものすごい勢いで揺れ始めたのである。もう何が何だかわからないまま、ただただその声に従うしかなかった。同僚と車に乗り込み、海を背にしてとにかく逃げた─
目が覚めた時、俺は知らない病院のベッドにいた。体の節々が激しく痛む。右腕、左足に至っては厳重にギプスが巻かれている。どうやら折れているらしい。
「〇〇さん?聞こえますかー?よかった、目が覚めたんですね」
「あの・・・。なぜ俺は病院に?」
「覚えてないんですか?〇〇さんうちに運ばれてきた日、東北で大きい地震があったんですよ。〇〇さん、車ごと土砂崩れに巻き込まれてたんですよ!」
・・・全て思い出した。そして一つ、自分自身でも驚くような考えに至った。スマホで震源地について調べたら、俺と同僚が釣りをしていた海、あの魚のようなものを釣った海だった。やっぱりか。そしてこう考えたら、全ての辻褄が合う。
─俺は、大地震の引き金を釣った。
ちょっと怖い話(ちょっ怖) 顰 @Arumakan-Shikami
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