第4怖 耳を澄ませば
大学時代、私が住んでいたアパートは、耳を澄ますと隣人が喋っている声や掃除機の音など、生活音が聞こえるほど壁が薄くてボロかった。しかもその隣人は猫を飼っているのか時折猫の鳴く声が聞こえてくる。それに加えて夜行性(?)らしく、夜中に帰ってきたり、出掛けて行ったりすることもあり、騒音でもないし、かと言ってこれがずっと続くと気になって夜眠れないし、隣人トラブルにするほどでもない悩みをいつも抱えていた。実家は近かったものの、どうしても一人暮らしをしたかった私は両親の反対を押し切って住んでいるので帰ることもあまりしたくなく、仕方なく我慢して生活していた。
ある日、私が明日は休みだし、と溜まりに溜まったアニメを一気見していた時、隣人がいつものように夜中に帰宅してきたようだった。なにやら上機嫌らしい。と言うのも、「ふふふん、ふん、ふ〜ん🎶」と楽しげな鼻歌をずっと歌っている。珍しいな、と思いつつもアニメを見るのに夢中で、その時は何も気にしていなかった。
翌日も、隣人は鼻歌を歌っていた。よく聞いてみると、昨日と同じ曲みたいだ。どこかで聞いたことあるな、と考えていたのだが、なにか様子が違う。鼻歌に混じって、「ニチャ・・・ネチャ・・・」と粘性の何かを手で混ぜるような音が聞こえてくる。さすがに気になって壁際まで行き、よくよく耳を澄まして聞こうとしたその時である。
「気になるの?」と壁の向こうの声が私に問いかけた。たまらず驚いて壁から離れても、声が止むことはなく話しかけてきた。
「気になる?気になるよね?そうだよね!この音なんだろうってなるよね!今から見せてあげるよ!」
そう告げると隣の部屋の扉がバン!と空き、こちらの部屋の扉を勢いよくノックし始めた。恐る恐るドアスコープから覗くと、履いているズボンが真っ赤に染まった隣人が立っていた。手には仰々しい刃物と、猫の首を持っていた。それに反応してはいけない、と思いながらも反応せざるを得なかった理由があった。
「その・・・猫・・・どうして・・・うちで飼ってる・・・」
そう。当時実家では猫を飼っていた。そして、その子が脱走して戻ってこないことを母から報されたことがあった。
「え?そうだったんだ!僕はね、猫になりたいんだ!だからこうして、その辺でうろうろしてる猫を捕まえて、猫の血を使ってジュースを作っているんだ!この猫は大変だったなあ、とっても反抗してきたからつい殺しちゃった!ほんとは生きたまま搾り取るのがいいんだけどね!あは!」
それを聞いた途端、涙と怒りで前が見えなくなった。何とか警察へ電話することができたところまでは覚えているが、それから後はあまり覚えていない。
隣人が逮捕され、実刑が確定したことを聞いたのはこのことから2ヶ月くらい後のことだった。それからはアパートを離れ、実家に戻った。あの子の葬式もしないといけないと思ったからだ。
そして最近気づいたことがある。
あの隣人が歌っていた鼻歌、「猫ふんじゃった」だ。
そしてあのとき壁際に私が近づいたのがわかって話しかけてきたのは、少し猫になりかけていたんだろうか。
ちょっと怖い話(ちょっ怖) 顰 @Arumakan-Shikami
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