ヴァンパイアロードとニンニク
夜が好き。静かだから。
日中の雑音から森の中、心地よい鈴虫達の鳴き声と川のせせらぎに耳を傾ける。時折獣の声がするため安全な道を選んで歩いていく。
今日も疲れちゃった。好戦的で低級レベルのフレイムスライムやウィンドイーグル、毒性の虫モンスターは自分より強いものに従う弱肉強食の関係性。
友好的なウォータースライムや妖精、温厚なホース種等は運が良ければ一般人でもテイム出来るモンスターに類を見ないぐらい懐かれて嬉しいのにちょっと周りがうるさくて思うように嬉しくない。
この嬉しくない気持ちに懐いてくれた子達に申し訳なくて更に悪循環な嫌な気持ちが胸に溜まる。
そういう時は森に入るのが一番、仲良くなった子に案内されて森の心地よい場所に連れ出してくれるこの時間が好き。
なんだけど、今日はちょっと嫌なことがあって森に駆け込んだ時、夜の森に対する危険さを投げ捨てちゃったみたい。
目の前にいる存在に異常さを感じた瞬間、死を覚悟した。
しくしくと泣く姿に、共感を感じたら思考は正常に機能し始める。
あの泣いている女性は恐ろしいものでいつでも自分の命を掻っ攫う存在意義だった。
ヴァンパイア
闇夜の支配者が涙を流しながらじっくりと獲物に目を向ける。
「ああ、これは可愛らしい坊やじゃない。青々しい顔がとても滑稽なほど白い兎のよう」
「そ、」
「さて、どうやって食べよう。幼い男は可食部が少ないけど柔らかくて上等な血肉。幼い女より食いごたえがあるから育てなくても直ぐに食べれるからいいのよね」
ひた、ひた、と素足で近づいてくる女性は、クスクスと微笑みながら食べ方を決めかねている。
「そ、な、、、」
「言いたいこと沢山喋って?最後には痛いとか悲鳴しか叫ばなくて面白くないのよ」
「それはそのまま食べてもおいしくないよ」
彼女の片手にあるちょっとかじられたそのままのニンニクを指差す。
「「、、、」」
テイマーとしてモンスターを調べる内に知的好奇心が刺激されたマールは生死よりもヴァンパイアが苦手とするニンニクをかじっている方が気になっていた。なんなら美味しくなくて泣いてるのが可哀想にも思っている。
「ち、違うでしょ!もっと他に言うことはないの?!」
「いや、かじってるのが気になって。あと泣いてて可哀想で」
「これは、克服するための練習よ。可哀想とか言わないで!」
「ピーマンが嫌いな子供に、ピーマンをそのまま無理やり食べらせている隣の夫婦の光景を思い出したよ」
「恐ろしい隣人ね?!あなた、それが最後の燈馬想でいいの。もっとあるでしょう。身近な愛する両親や隣人を思い浮かべなさい!」
「すごい聖職者みたいなこと言ってくる」
久しぶり笑った。恐怖で可笑しくなっても最後に笑うことが出来たと思った。生死の前では昼間の出来事がちっぽけなことだと感じて晴れやかな気持ちになった。
「久しぶりに笑った。ありがとうお姉さん」
「なによ、可笑しな坊やね。なんだか食欲が失せちゃったわ」
食欲が失せたと言ってもお姉さんがいる限り体が恐怖で悲鳴を上げている。立っているのがやっとでもお姉さんにお礼がしたいなと考える。
「お礼に、そのニンニクを使って料理してもいいですか?」
食べることは生きるうえで大切なことだ、これは医療部隊にいた時の自分なりの考えで。最低限、衣食住を整えることで様々な生存率を高めると考えている。
「ふーん、、、まあどうせ食べるし。暇つぶしにちょうどいいわ」
そう言ったお姉さんは、マールを抱きしめて影の中に潜っていった。
_
次に目に飛び込んだ光景は森の中ではなく、薄暗い明かりで照らされた厨房だった。使い古された食器や調理器具が置かれていて中には本でしか見たことない道具が所狭しに置かれていた。
「ようこそ、ヴァンパイアロード アルシスの城へ。そして二度と帰ることができない迷宮へ」
抱きしめたマールを放り出して、厨房の出入り口で立ちふさがったお姉さんは妖艶な笑みを浮かべてマールを見下す。
「逃げようとした瞬間、わたしの使い魔があなたの足を切り落とすわ。次に、這いずれないように腕を切って。玉座に座る私の前に大きな皿の上に置かれて運ばれてくる。そうならないようにせいぜいお礼を一生懸命作ってね。そしたら痛くないように食べてあげる」
「じゃあ、ゆっくり待ってるわ」
そう言ってアルシスは持っていたニンニクをマールへ投げ渡し、厨房から出ていった。
「、、、ふふ」
「人間より、優しい人だな」
恐怖で、強張っていた体が冷や汗が出ると共に動かかせるようになってきた。
体の硬直が収まって数分、血の気が引いた体に温かい血液が循環していくのを感じる。
手を握って大きく開く、足を揺らす、大きく背伸びをして脱力をする。ある程度動けるようになれば厨房を見て回る為に立ち上がると"何か"に足を掴まれる。
自分の影から細いリボンが数本伸びて足を固定している。これがアリシアの言っていた使い魔という訳か。
シャドーだ、名の通り影状の低級モンスター
生物の影を、力で無理矢理引き離した時に出来るモンスターで影を失った生物の器は死に、魂は影に宿ったままとなり深淵の中で、彷徨う存在に成り果てるアンデット系のモンスターだ。感情が乏しく、目標と居場所を与えると従順に従うため割と悪魔系のモンスターが好んで作る使い魔だと読んだことがある。
「大丈夫、逃げないから。」
ここで大慌てたら問答無用で殺される。
料理を作るから手伝ってほしいな?」
最優先事項が「逃げたら殺せ」なのでここはしっかりとした意思疎通をはかる。ついでに目標を与えるという好意的な態度で接する。
「この厨房にある食べ物を調べたいから、教えて?」
足から黒いリボンが離れて自分の影の中に戻っていく。
なんとか意思疎通と交渉が取れたようなので厨房を見渡す。時々黒いリボンが棚の中にあるバスケットや陶器製の容器、ガラス瓶の保存食の中を見せてくれる。
畜産農家を営む実家より新鮮な畜産系や畑の食材があることに感嘆を漏らす。そして、疑問を持つほどの採れたての海鮮系も出てくるがそれ以上に種類の多さに驚きが隠せない。
時々出てくる赤黒い色で書かれたミミズのような文字のメモが出てくる。
どうやらヴァンパイアロードアリシアは、中々の美食家で定期的に腕に覚えのあるシェフを捕まえて来てはここで料理を作らせているようだ。その料理人の持ち物が今の設備の充実さを高めている要因だった。
その中でもニンニクを使った料理は、今も彼女が好むものが出されておらず。そもそもヴァンパイアにニンニクを食べらせることを拒否したことを綴ったシェフのメモは血飛沫で読めるものではなかった。
威厳の無い最弱テイマーは、胃袋掴んで最強テイマー?! 神音色花 @KamineIr0ha
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。威厳の無い最弱テイマーは、胃袋掴んで最強テイマー?!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます