言葉は纏まらないけれど
師匠とベルナに関して、ミラが教えてくれた。
ドラゴンの神秘に関しては彼女も分からないことがあるらしく、俺の特殊性が人外を惹き付ける変化を起こしたんだとか。
「まあ、軽く確かめるのもありだろう」
「え?」
既に夜も遅い時間なんだが……えっと?
首を傾げる俺を連れ、ミラは歩いて行く……向かう先は師匠の部屋らしいが、もしかして直接聞くってことか!?
途端に緊張感が出てきた俺と、堂々と前を歩くミラ。
そして師匠の部屋を前にした時、ミラが待てと言って俺を止めた。
「先に私が入るからミナトは良いと言ったら入ってくれ」
「え? あぁうん」
ミラが先に入り、五分くらい経ってから良いぞと言われた。
勝手知ったる師匠の部屋に入った瞬間、一瞬だけとはいえ何かがおかしいとすぐに分かった……というのも、頭がクラッとするような甘い香りがしたからである。
「……失礼します師匠」
「よ、良く来ましたねミナト」
ソファに座りながら俺を迎えてくれた師匠だが、その服装はミラが好んで着るようになったネグリジェと似たようなもので、とにかくスケスケで師匠の綺麗な体が結構見えてしまっている。
師匠が特に体を隠したりしないのは、昔からこの状態の師匠と俺が良く一緒に寝たりしていたからで……でもそれにしてはやっぱりエロいよなエロフだこれは。
「もしかして師匠、寝てたりしてました?」
「い、いいえ? 全然寝てませんでしたよ」
「はぁ……」
どうしてそう思ったのかだが、単純にミラが呼ぶまで長かったからだ。
とはいえ師匠は微妙に汗を掻いているみたいだし、体は火照ったようにちょっと赤みがあるというか……まるであの時のミラを彷彿とさせる様子だった。
「くくっ、詳しく考えてやるなミナト」
「え? あぁうん」
「み、ミラさん!」
ミラをキッと睨みつける師匠だが、ミラは一切気にした様子もなくクスクスと楽しそうに笑うだけだ。
さて……早速だがミラがぶっこんだ。
「お前が何をしていたかは取り敢えず置いておくとして、最近大きな変化を感じているのではないか?」
「変化……ですか?」
「ミナトに対してだ――お前は今までもミナトに対して悪くない感情を抱いていたはず……だが最近、それが抑えられないほどに感じているんじゃないか?」
「っ!?」
ミラの言葉に、師匠は目を見開いて驚いていた。
ジッとミラを見ていた視線は俺と変わり、段々とその瞳が潤んでいくだけでなく頬が赤くなっていく。
「わ、私は……」
「今回はそれを確かめる意味もあった――ミナトが持つ不思議な何か、それがドラゴンの私と共鳴を起こすことで、どうも人ではない存在……とりわけミナトに良き感情を持つ者限定で作用していると考えてな」
「……………」
ここまで言われてここに来た趣旨に気付けないわけがない。
つまり、師匠は俺に対して良い感情を……恥ずかしくてその正体に関しては言葉を濁したくなるが、師匠は……そういうことなんだろう。
(でも……俺と師匠は家族同然の付き合いだった……それは決して間違いじゃないし嘘でもない……でも――)
師匠は、諦めたようにふぅっと息を吐き……そして話し始めた。
「最近……確かにそれは強くなったように思えます。というより、私はもうずっと前からミナトに対して淡い想いを抱いていたようなものです」
「師匠……」
「……エルフの価値観はそうそう変わるものではない。ですが、私の価値観を変えてくれただけでなく、誰かを愛する尊さを教えてくれたのがミナトだった……あなたと家族になれたことは最大の喜びですけど、心のどこかで今以上を求めていたのも確かなのです」
師匠の言葉に俺は何も口を挟めなかった。
ただこれをミラはどういう気持ちで聞いているのか気になり、彼女に視線を向けてみると……ミラは満足したように頷いており、決して師匠に対して嫌そうな表情を浮かべてはいない。
「その気持ちは分からんでもない――女とは、自分を捧げたいと思う存在に出会えたら想いを募らせるものだと……私はミナトに出会ってこれでもかと実感した。共に居たいと、共に生きたいと、もっと彼を感じたいと強く思ったからな」
「……ですが、先を越されてしまいました。もっとも、ミラさんが現れなければ私がこうなることもなかったでしょうが」
この会話に俺は凄く入りずらい……けれど、師匠の切なそうな表情を見ているとどうにも胸が痛くなる。
俺は、師匠にずっと笑っていてほしいんだ。
師匠には笑顔が一番似合う……些細なことでも悩んで疲れた顔をしてほしくなかったから、あのパーティの時に行動したのだから。
「ミナトはどう考えてる?」
「え?」
「ミナトは、今のエリシアを見てどうしたい?」
「……………」
隣に座り、俺の手を握ってミラは聞いてきた。
俺は……俺はどうしたいんだと思うよりも前に、師匠に対して思ったことを口にするのだった。
「俺は、師匠にずっと笑っていてほしい……その想いが強いかな」
「そうだな、ミナトならばそう言うだろう――ならば、エリシアも嫁としてもらったらどうだ?」
「……え?」
「はい!?」
ちょ、ちょっと何を言ってるんだミラは……!?
驚く俺はともかく、師匠は盛大に驚いて大きな胸をぶるんと揺らしながら身を乗り出してきて……そのままジャンプするように俺に飛びつく。
「無論正妻は私だがな。これから先、ミナトは多くの人外を惹き付けるであろうことは想像出来る。まあ多くはないかもしれんが、少なくともエリシアとベルナは確実だと思っている」
ニヤリとミラは笑い、言葉を続けた。
「ミナトは私だけの物……それは変わらん。だが、女としての喜びを知ったからこそ、これが成就出来ない者の苦しみも理解出来る。ベルナはアレだが、エリシアにも世話になったからな。お前とならば、ミナトを愛していくことに問題はない」
ミラが再び俺に視線を向け、こう言った。
「突然で難しいかもしれないが、ミナトはエリシアに傍に居てほしいと思っているか?」
「それは……もちろんだ」
叶うならば、師匠とずっと一緒に居たい。
それはミラという存在が傍に居たとしても変わらない……それだけ師匠の存在も俺にとっては大きいから。
ミラが頷き、俺に言ってやれと促す。
まだ言葉は纏まってないものの、俺は師匠に向き直った。
「師匠……俺は、師匠と一緒に居たい……今までと同じように、これからも傍に居たい……です」
そう口にして師匠の手を取ると、師匠は嬉しそうに微笑み……僅かに涙を流しながら、同じ気持ちだと言ってくれた。
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