ドラゴンとの契りとは

 世の中には色々な考え方があるものだ。

 国の治め方など、或いは他国への干渉の仕方など……そのやり方は様々だが、エルド王国は比較的平和なやり方を模索している。

 まあ今はトップがドラゴンの存在にご執心だが、それでもあくまで他国に比べたら全然マシだ。


「ドラゴンの力……欲しいな」


 そう呟くのはレクト国の王である。

 彼はドラゴンという存在を愛してやまない……それこそ病的なまでにその威光に囚われている。

 彼が治めるレクト国の空には、全身を鎖で巻かれたワイバーンが飛び回っている。


「王よ、またドラゴンのことを考えているのですか?」

「もちろんだ。王国に現れた白銀のドラゴン……きっと、この目で見れば素晴らしく美しいのだろう。それこそ、力で全てを支配する我らにこそ相応しい純粋なまでの力だ」


 力こそ全て、それがこの王と国の考え方だ。

 空を飛んでいるワイバーンたちは決して自由ではない……ワイバーンたちの体に巻きついている鎖は問答無用で命令を聞かせる古代遺物だ。

 力の前に自由はなく、ただ従うのみこそがこの国の在り方である。


「しかし、ドラゴンに唯一近いと思われるあのエルフはこちらに近付くことはしないでしょう。懇切丁寧に招待したとしても、あのギルドには強者も多く敵対は避けるべきでしょうが」

「くくっ、まあいずれはどうにかしたくはあるが……それよりもドラゴンライダーに関してこれといった情報は?」

「そちらに関しては全く……本当に謎の存在ですよ」


 ドラゴンライダーとは、ミナトのことだ。

 エリシアのことが話に出るのは当然として、ミラの背に乗っていたミナトが話題に出るのもまた当然だ。

 だが、この王にとってドラゴンライダーという存在はあまりに許すことの出来ない存在として認識している。


「ドラゴンとは、絶対の力の象徴なのだ――その存在を有象無象が従えるなどあって良いはずがない」


 つまるところ、認められないのだ。

 ドラゴンとは力であり、恐怖であり、希望でもある――そんな存在を従える存在などあってはならない……あるのであれば、自分でなくてはならないと彼は本気で考えている。


「……だが、ドラゴンを従えている時点で有象無象ではないか」


 しかし、彼はちゃんと弁えてる方でもある。

 それでもドラゴンライダーという存在が邪魔であり、それを滅することでドラゴンを手に入れたいと考えているのは変わらない。


「ところで王よ」

「なんだ?」

「ドラゴンをもしも手に入れることが出来たとして、ワイバーンはどうするのですか?」

「必要なかろう。ドラゴンの力は全てを思いのままにする……まあ、その時は体に時限式の爆破魔法でも掛けて特攻を仕掛けさせてやれ」


 果たしてその非情さは、彼を栄光に導くのかどうか……。



 ▼▽



「久しぶりだなぁ……」

『言われてみれば確かにそうだな』


 今日は久しぶりにミラと朝から二人っきりだ。

 ミラが来てから師匠のことだったり、ベルナのことだったり……色々あったけれど、その中でミラが二人で過ごしたいと言ったのでそれに応えないわけにもいかなかった。

 まあこれに関しては元々、ミラとそういう時間を作ろうと考えていたからちょうど良かったのもある。


『無理をさせてないか?』

「全然? むしろ良かったよ、こうしてミラと二人の時間を作れて」


 ミラの背に乗って快適な空の旅だ。

 魔法によって姿を隠しているからこそ、俺たちは地上に気付かれることなく悠々と飛べている。


「……?」


 そんな中、俺たちは空を飛ぶとある存在を目にした。

 それはワイバーン……おそらくレクトの物と思われる国の紋様と、全身に鎖が繋がれている。


『不愉快だな』

「あれは……」

『あの鎖には隷属させる力があるようだ。あの鎖によって、ワイバーンは人間に従っている』

「……なるほど」


 レクトには行ったことがないものの、ある程度の情報は知っている。

 ワイバーンを使役しているというのはもちろんだけど、それもまた無理やりといった方法か……俺にはワイバーンの表情は分からない。

 でも……。


「気のせいかな……辛そうな顔してない?」

『辛いというよりは己への無力感だろう。ワイバーンはその見た目がドラゴンに似ている者も居るが、能力は圧倒的に劣る。まあ奇襲や空の戦いでは無類の強さを誇るだろうが、あくまでドラゴンを考えない場合はな』

「……………」


 ドラゴンを出したら何でもそうだろうな……っと、それは置いておくとして。

 あの鎖を巻き付けることで、どんな抵抗も許さずに言うことを聞かせるというのは……中々罪深いというか、独裁者にとって最高のアイテムってところだろう。

 レクトという国に良い噂は聞かない……ドラゴンのことに関して師匠に色々と打診が来ているようだが、何かあっても良いよう警戒するに越したことはない。


『まさかとは思うが、あれを使って私たちドラゴンも好きに出来ると考えているのではなかろうな』

「ちなみにどうなんだ?」

『結論を言えば全くの無駄だ――というより、ドラゴンにドラゴン以外の攻撃や状態異常は利かん』

「……へぇ」

『ドラゴンを手に入れれば……というのも間違いではない所以だな』


 本当にドラゴンって規格外なんだな……。


『もしかして心配してくれたのか?』

「もちろん」


 嬉しそうに喉を鳴らすミラに苦笑し、改めてワイバーンを見る。

 ここからだとワイバーンに跨る男の声は分からないが、ここは王国の領土……この場合は完全な領空侵犯だ。


「あ、帰ってった」


 それでもすぐ、ワイバーンは引き返していく。

 俺よりも遥かに目の良いミラがずっと見つめ続け、完全に距離が離れた段階で高度を落とした。


「さて、一旦休憩するか」

「おう」


 人になったミラと共に木陰でのんびりとした時間を過ごす。

 そして、気を抜いた瞬間だった。


「ぅん……」

「っ!?」


 ガシッと、頬に手を当てられたかと思いきや……ミラの顔が目の前にあり、唇と唇が触れていた。

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