意外と良い子だった
「ぅん……あっ」
「……………」
「くるぅ……これ……すごっ……おっ!」
「……ミラさん?」
「なんだ……?」
「声……抑えてくれない?」
もうさぁ……もうさぁ!
なんでただのマッサージをしてるだけなのに、さっきから妙に色っぽい声出してんだよこの嫁さんは!
「ま、気持ち良いなら良いか」
「ふふん♪」
得意げな顔をして頷くミラだけど、俺もそれならと笑ってしまう辺り何だかんだこういう二人の時間を純粋に楽しんでるよなぁ。
「……なあミラ」
「なんだ?」
「ベルナなんだけど……絶対何かやらかしそうな気がするんだよ」
俺の言葉にミラは苦笑する。
気になっていたのは昨日だけど、ベルナが何やら王城の方を険しい顔で見ていた。
ドラゴンのベルナにとって、この世界に脅威はないはずだ。
それこそあんな風に城を険しい顔をする理由はないはず……だというのに一瞬だけ見せたあの表情がどうにも俺は気になっている。
「気付いていたのか」
「やっぱり……なんかあんの?」
「あぁ――注意する前に帰ってしまったし、余計なことを仕出かす前に止めるとしよう」
もう完全に何かやるって決まってるのか……まあでも、ミラがこう言ってるんだから俺も無視は出来ない。
「じゃあ行くか」
「え?」
いつ見ても目に毒なネグリジェ姿のまま、ミラは起き上がった。
たぷんと揺れた重量感溢れる胸の動きをしっかりと見せ付けてきたミラは、そのまま俺を連れて部屋から出ていく。
「おい、流石にその恰好はマズいだろ」
「むっ? あぁそうか……心配してくれるのか?」
「……襲われるって意味では心配してない。でも、他の誰かにミラのそんな姿を見られるのが嫌なんだ」
そう言うとミラは目を丸くし、すぐに部屋に戻って上着を羽織った。
「……そうだったな。あなたの妻としてなんたる恥を晒すところだったのか」
「あぁいや、そこまで考えなくても……」
「考えるべきなのだ。確かに冷静になって考えてみれば、私の乳房などはあなたにしか見られたくない……むしろ肌さえもと、そう思えるようになったのは良い変化だ」
ミラは凛々しく、そして圧倒的なまでの他者を呑み込む雰囲気が彼女のそれだった……でも今、隣に並んだ彼女は生娘のように頬を赤くして照れたような表情を浮かべ、俺をジッと見つめている。
「さあ、行こうか」
「あ……あぁ」
……あれ……あれれ~?
何だろう……凄くこのミラが可愛いというか、俺の反応を楽しもうとする様子は一切なく、本当に照れているみたいだ。
そのまま俺たちは、ギルドホームを出てしばらく歩く。
「綺麗な月だ……やはり夜はこうでなくてはな」
「そうだなぁ……でも俺、夜寝るときにざあって雨が降る音も嫌いじゃないけどな」
「確かにそれもまた悪くないか」
夜ということで、外に出るまであまり人の目もなかった。
いくらミラが上着を着たからと言って、ただでさえ薄着の上に着ただけだからムッチリとした太ももなんかは思いっきり晒されている。
「なあミナト」
「うん?」
「私は最近、良く思うことがあるんだが」
「なに?」
「私たちはいつ、夫婦として繋がれるんだ?」
「……………」
「くくっ、まあ私たちなりのペースだな」
ふぅ……これについても、俺が頑張らないとか……でもこんな風に悩むことになるとは……。
けど……最近よく分からない感覚がある。
時々……本当に時々なんだけど、ミラが“喰いたく”て仕方なくなるこの感覚はなんだ……?
「……ほら、見えたぞ」
「え……っ!?!?!?!?」
ちょっと待て……なんじゃあれはああああああっ!?
ミラが指を向けた先には、たぶんだけど青い色のドラゴンが飛んでくる姿が見えた。
角の生え方であったり翼の形……他は色はもちろんだけど、ミラとは全然違う……でも放たれる威圧感はあまりにも凄まじく、それこそこの王都にとっての脅威であることが窺える。
「ま、まさか……っ!?」
「そうだ――ベルナはあなたを気に入っている。それでほら、騎士団の男が来た時に色々と話をしただろう? それでこの国の王があなたに迷惑を掛けているとそう思ったんだ」
「……ミラ、止めて」
「分かっているさ」
ミラは俺をお姫様抱っこするようにしながら持ち上げ、そのまま背中に翼を生み出す。
人間の状態で行う部分変化のようなもので、そのままあり得ないほどのスピードでミラはベルナの背中に着地した。
『え……っ!?』
「こら、何をやっている?」
『お姉さまにミナト!? 何って……ミナトに迷惑を掛ける王様ってのを消してやろうかと』
「……………」
『もしかして……ダメなやつ?』
俺とミラは、ほぼ同時に頷いた。
ドラゴンの厳つい顔だってのに、まるでギャグマンガのようにダラダラと汗を掻くベルナに、やっぱりこの子……色んな意味でチョロいというか良い子だ。
「チョロい妹だ」
『うっさいわね! 流石にミナトやお姉さまが止めてくるなら話は別。王は殺さないでおいてあげる』
「あげるじゃないんだよこの馬鹿が」
『馬鹿って言った方が馬鹿なのよばーかばーか!』
「……微笑ましいのに会話の内容がデンジャラスすぎるって」
それから目的を失ったベルナは人間の姿に戻り、俺たちも地上へ。
ただちょうど降りた場所が王都の中でも特に繁華街とされている場所であり、ここには娼館やら何やらが沢山立っている賑やかな場所だ。
師匠から絶対に、何歳になっても来てはいけない場所として約束したのももう昔の話だ。
「夜だというのに賑やかだな」
「ここはそういう場所だから」
「ふ~ん? 楽しい場所?」
「なんつうか……夜の街ってやつだ。良い子はあまり来ちゃいけない場所って感じ」
「そう……じゃあ私はここには来ないわ。なんというか、向けられる視線が気持ち悪いし」
そうだな……というかたぶん、俺が店の利用客でミラとベルナが嬢とでも思われてるんじゃないか?
二人のことをそう見られるのは……まあミラは当然として、ミラの妹だし、俺や師匠だけでなくギルドの人と仲良くしているベルナをそんな風に見られるのは嫌だ。
「とっとと帰ろう」
「分かった」
「? 分かったわ」
そうして歩き出そうとした時、面倒事が飛び込んできた。
「うほっ! なんだ物凄い美女が居るじゃないか!」
現れたのはぶくぶくに太った貴族だった。
周りに女を侍らしているだけでなく、服装も高そうで何よりジャラジャラと宝石を付けまくっている。
「ベルナ」
「もうやってるわ」
「え?」
面倒だと思った瞬間、世界が凍った。
それは以前にも見たベルナの力……あぁそういうことか。
「凄いな……」
「相変わらず便利な力だ」
「お姉さまだと相手が消滅しちゃうしね。こういう時は私に任せて」
消滅って何さ……でも、本当に凄い力だ。
歓楽街一帯が凍り付き、その隙に俺たちはホームへと戻った……けれどこうしてドラゴンの力を見せ付けられる度に思うのは、どう足掻いても何かしらの厄介事に巻き込まれそうな気がしてる。
あくまで予感だけど……こういう時の予感は当たるんだよなぁ。
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