集うドラゴン?
「……へぇ」
とある場所で女性の声が響く。
「お姉さまったらそんなところに居たのね……ふ~ん?」
女性が手に持っているのは雑誌であり、ここ最近の情報が正確に記録されているものだ。
その雑誌のタイトルとしては、【かのエルフはドラゴンと繋がりが!?】というもので、王国都市のギルドを束ねるエルフの女性が、ドラゴンに跨る男性と親密な関係にあるらしい……そんな記事だ。
「この男……誰?」
クソダサい仮面とスーツを着ているが、それでもこの人物が男であることには気付いている。
「お姉さまが体に触れさせるだけでなく、背に乗せている……」
これは……確かねばならないと女性は決心した。
「ふぅ、氷海浴もこれくらいで良いかしら」
まるで温泉から出るかのように女性は立ち上がった。
グラマラスな肢体を浸けていたのは氷の浮かぶ海……それこそ氷点下という言葉が生易しいほどに、吹雪の吹き荒れる海である。
女性を包み込むように膜が張られており、それらが雪と風を凌いでいるが水の冷たさを誤魔化すことは出来ないはず……だというのに、女性の体に悪い異変は何も見えていない。
「久々の人の世界……まあ、こうして人化の魔法も会得出来たわけだし行ってみようかしらねぇ」
ニヤッと笑みを浮かべた彼女の背から翼が生え、そして瞬く間に人の姿からドラゴンへと変化した。
神話に生きるドラゴン……もしかしたらミラと何か関係があるのかもしれないが、それはまだ誰にも分からない。
▼▽
「お疲れ様ですミナト」
「……うっす」
師匠の言葉に頷いた俺は、その場に横たわって荒く息を吐く。
というのもさっきまでずっと、師匠相手に模擬戦を行っていたからだ。
「魔法だけでなく剣術も優れているか……流石だエリシア」
「ありがとうございます。ミラさんからそのように言われると、私としても自信が付きますよ」
眺めていたミラはともかく、俺と手合わせをしてくれていた師匠には一切の疲れがない……やっぱり流石だ。
そんな師匠に比べて俺のなんて情けない姿……そう思っていたのも過去の話で、ここ数年ではそうやって気を落とすより師匠は凄いんだと憧れるようになったので、それさえも糧になりやる気にもなっている。
「ミラさんならそこまでするなと、そう言われるのも覚悟していたのですがね」
「私が居ればミナトは戦わなくても良い……そう考えているのは間違いないが、強くなることをミナトが望むのであればその選択を尊重するのが妻の役目だろう? それにまあ、エリシアには分からんか」
「はっ?」
おっと……何やら空気が怪しく……?
これは関わるべきではないと空気になることを選び、一旦二人が落ち着くまで俺は口を開かなかった。
それにしても……この場所は本当に静かで良い。
(師匠といつも修行をする場所……穏やかで、小鳥の鳴き声が聞こえて、おまけに湖が綺麗だ)
王都から少し離れた森の中、それも秘境のような場所だ。
自然との親和性が高いエルフだからこそ辿り着ける場所で、ここからだと空の太陽であったりが見えるのだが、逆に空からだとここには絶え間なく木々が生い茂っているようにしか見えない。
「ミナト」
「うん?」
「脱げ」
「……え?」
脱げ……脱げ!?
いきなりそう言われてしまい、俺は当然なんでだよと反論しようとしたが……その後、俺は腰にタオルを巻いたまま湖の浅い所に浸かっていた。
(こ……これは……っ)
俺を挟むように、タオルを体に巻いたミラと師匠が腰を下ろしている。
ミラは堂々と、師匠は僅かに頬を染めて恥ずかしそうに……けれど絶対にこの場から離れようとする気配はなかった。
「汗を掻いたのであれば綺麗に流すに限る。ホームで湯も良いが、こうして自然の水というのも悪くはないだろう?」
「それは……一理あるな」
確かに運動した後のこれは格別の気持ち良さがある。
ただ……右を見ても左を見ても、抜群のスタイルを誇る女性の肉体があるっていうのはマジで緊張する。
小さく深呼吸をすることで気持ちを整える……ふぅ。
「まさかミナトとこのようなことを許してくれるとは思いませんでした」
「ふんっ、せっかくこの気持ち良さなんだ。お前一人を仲間外れというのは寂しいだろう? それに、お前ならば構わん」
「それは……」
俺は聞く専……聞く専だ。
「ところでエリシア」
「はい?」
「あれからどうだ?」
「まあ、色々とお手紙は届いていますよ」
それは……よし、聞こう。
いつの間にか距離を詰めてきたミラに何も言わず、とにかく雑念を振り払うように師匠の言葉に耳を傾けた。
「どれも返事をするに値しない物です。言ってしまいますが、ワイバーンを擁するレクト国から招待など……とにもかくにも、ドラゴンとの繋がりをどうにか得ようとする者は大勢居ます」
「……師匠」
つい、言葉を挟んでしまった。
あれからというもの、面倒なほどに師匠に対してドラゴンに関する質問が飛び交っている。
ギルドメンバーの一部にもそれを求める人が居たりして……まあでも、サリアさんやジャックさんが上手く話しを合わせてくれるから助かってはいるが……分かってたことだけど、本当に師匠には迷惑を掛けている。
「やはり全て消した方が得策か?」
「止めてくださいね?」
冗談だと、ミラは笑った。
そして……師匠まで気付けば俺の腕を抱くように引っ付いていた。
「おい、私の夫から離れろ」
「嫌です」
「……ちっ」
また不穏な空気が……けれど、そんな俺の不安も何故か吹き飛ぶ。
「……?」
「これは……」
俺の中で何かが騒めく……そしてそれはミラも同じらしい。
ミラと一緒に見据えるのは遠くの空……何だろう――何かが近付いている気がする。
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