第5章

第89話 そうそう、これから色々大変だと思うけど頑張ってね

 修学旅行が終わってから数日が経過した今日、俺達二年生は学園祭モードに移行していた。そのため次の七時間目は学園祭に関するホームルームだ。

 今日と明日にホームルームを行なって決めなければならない事を話し合い、明後日から本格的な準備に取り掛かる流れになっている。ちなみに今日のホームルームの議題は学園祭のクラスリーダー選出と演劇の題材についてだ。

 クラスリーダーになれば内申点がかなり加算されるため推薦を狙っているであろうクラスメイト達数人が立候補しておりその中に玲緒奈の姿もあったが、投票の結果は予想通りだった。


「やっぱりそうなるよな」


 玲緒奈が他の立候補者を大きく引き離して圧勝したのだ。玲緒奈が手を挙げた時点で絶対勝てない事を悟って辞退したクラスメイトもいた。やはりスクールカーストのトップに君臨している人間は強い。

 言うまでもなく俺は立候補なんてしなかった。そんな面倒な事は絶対にやりたくないし、そもそもやる気があったとしても投票で一票も入らない自信がある。


「この後は演劇の題材決めか、どうせ裏方になるだろうしぶっちゃけ何になっても良いんだよな」


 修学旅行中に演劇で主要キャラを演じてもらうみたいな事を玲緒奈と里緒奈から言われていたが流石にあれは冗談だろう。そもそも主要キャラを俺みたいな陰キャにさせようとしても間違いなく反対されるため無理に違いない。

 そんな事を考えているうちにクラスリーダーとなった玲緒奈主導で話し合いが始まった。しばらく案を出し合った後、その中のどれで行くかを議論し始める。

 現在は演劇の題材として童話などの既存のストーリーを使うかオリジナルの題材にするかで議論をしている最中だ。どの題材が選ばれるにしろ主要キャラはクラスの美男美女が選ばれるに違いない。

 そんな事を考えているうちにだんだん眠くなってくる。昨日はダンジョン周回に熱中して夜更かしをしたため絶対にそのせいだ。しばらく眠気と必死に戦う俺だったが生理現象には勝てず、目覚めた時にはちょうどホームルームが終わるタイミングになっていた。


「結局演劇は白雪姫になったのか」


 黒板には白雪姫という文字がデカデカと書かれているところを見ると難易度が高いオリジナルではなく無難な既存のストーリーを題材にする方向で話がまとまったらしい。


「あっ、涼也君。やっと起きたんだ」


「気付いたら寝てた」


「私が頑張ってたのに寝るなんて中々良い度胸だね、わざわざ涼也君のためにクラスリーダーに立候補してあげたのに」


「えっ、どういう意味だ?」


 玲緒奈の口から出た思いがけない言葉に対して俺はそう返した。俺のためにクラスリーダーに立候補したという意味がちょっと良く分からない。


「ほら、私がクラスリーダーになったら涼也君を振り回……色々サポートしやすいと思ってさ」


「おい、今振り回しやすいって言いかけただろ」


「細かい事は気にしちゃ駄目だよ」


 先週あった修学旅行の三日間で散々振り回されたというのにまだ飽きたりなかったようだ。学園祭までの期間も玲緒奈や里緒奈のおもちゃにされそうな未来しか見えない。


「そうそう、これから色々大変だと思うけど頑張ってね」


「それってどういう意味だ?」


「あそこを見たら全部分かるよ」


 玲緒奈が黒板の左側を指差していたためそこを見ると演劇の配役が書かれていた。メインキャラクターを演じなければならない人は大変だなと完全に他人事のように考えていた俺だったが白雪姫の配役を見た瞬間思わず声を上げる。


「えっ、白雪姫の配役が八神涼也ってどういう事だよ!?」


「そのままの意味だけど」


「いやいや、俺でも理解できるように分かりやすく説明してくれ」


 ちょっと理解が追いついておらず絶賛困惑中だ。そもそもなぜ男の俺が白雪姫を演じなければならないのだろうか。うちは文系クラスのため女子の方が多い。そのためわざわざ俺を選ぶ必要性が全く無いのだ。


「とりあえず涼也君が白雪姫役になったのは私が強く推薦したからかな」


「玲緒奈が推薦したとしても流石にキツくないか?」


「確かに最初は反対する声も多かったけど涼香ちゃんの写真をクラスのLIMEグループに貼って皆んなに見せたら一気に賛成に傾いたよ」


「おい、何て事をしてくれてんだよ!?」


 あれをクラスメイトに見られたとか最悪過ぎるんだけど。まさかとは思うがこれを狙って女装させられたんじゃないだろうな。いや、いくら何でもそれは流石に考え過ぎか。

 そしてめちゃくちゃ今更だがクラスのグループがある事を今日初めて知った。二年生になってから半年近くが経つというのに相変わらず俺はハブられているらしい。


「ちなみに涼也君をサポートするために王子様役には私がなってあげたからよろしくね」


「マジで鬱だ」


 まだ学園祭の準備期間初日だというのにもう既に憂鬱な気分になっていた。今年の学園祭はきっと波瀾万丈に違いない。

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