第87話 今日だけで一週間分くらい疲れた……

 奥社奉拝所を出発した俺達は引き続き頂上を目指して歩き始める。最初の頃は楽しく登っていたが頂上までは結構距離がありだんだん疲れてきた。

 特に体力の無い里緒奈は息も絶え絶えな様子だ。まあ、御本殿を出てからここまで一時間以上山登りをしているため無理もないだろう。


「……もう限界」


「後ちょっとで階段も終わりだから頑張って」


「とりあえず階段を登り終わったら休憩しようぜ」


 俺と玲緒奈は里緒奈を励ましながら階段を登っていく。今登っているこの階段がかなり急な事も疲れてしまう大きな要因と言えるだろう。何とか階段を上りきると開けた場所に出た。

 四ツ辻と呼ばれるらしいこの場所はちょっとした広場になっており、設置されていたベンチで休憩している人達の姿が目に入ってくる。


「飲み物を買ってくるから二人は座っててくれ」


「涼也ありがとう」


「じゃあお言葉に甘えさせて貰うよ」


「とりあえず二人が好きそうなのを買ってくる」


 俺自身もかなり疲れていたがここは男の役目だと思って飲み物を買う提案をした。ぼっちの俺でも疲れている女子の気遣いくらいはちゃんと出来る。

 二人の前で少し格好を付けたかったのは内緒だ。ひとまず近くにあった自動販売機に来た俺だったがそこに表示されていた金額を見て驚く。


「おいおい、普通の水が二百円以上するんだけど」


 それ以外も全て二百円を超えておりコーラに至っては三百円近くした。御本殿近くにあった自動販売機よりも二倍近く割高な計算だ。

 多分ここまで運ぶコストがこの値段の原因だろうがそれにしても高過ぎる。だがここは何も言わずに奢った方が格好良い気がしたので黙って買った。

 それから玲緒奈と里緒奈の座っている場所まで戻った俺は二人に買ってきた飲み物を手渡しそのまま三人で飲み始める。


「生き返るな」


「うん、途中からめちゃくちゃ喉が乾いてたからスッキリしたよ」


「美味しい」


 さっきまでは疲れ果てていた里緒奈も飲み物を飲んだ事によって元気を取り戻していた。頂上までまだ距離はあるらしいがこれでもう少し頑張れるはずだ。


「そう言えば今更だけど景色がめちゃくちゃ綺麗だね」


「ああ、さっきまでは疲れててあんまり気にする余裕が無かったけどかなりの絶景だよな」


「ここからは京都市内が一望出来る、だから撮影のベストスポット」


「里緒奈はもうすっかり元気みたいだね」


 目を輝かせて景色の写真を撮っている里緒奈を玲緒奈は温かい目で見ていた。双子の二人だがこういう場面を見ると玲緒奈の方がお姉さんっぽく感じから不思議だ。

 しばらく景色を楽しみながら休憩をした俺達は山頂を目指して再び歩き始める。道のりも四ツ辻までと同様かなり急だったためしっかり休憩したはずだというのに山頂に到着する頃には三人ともへとへとだ。


「ついに山頂だね」


「だな、ここまでマジで長かった」


「今日だけで一週間分くらい疲れた……」


「一週間分くらいってのがやけに生々しいな」


 ようやく到着した山頂だが景色は正直微妙だ。何というか思ったよりも普通だった。はっきり言って景色だけなら先程休憩した四ツ辻からの方が遥かに良かったと言える。

 山頂の標高が二百三十三メートルと聞いて凄い絶景が広がっていると思い込んでいたためちょっと残念な気持ちになった事は言うまでもない。

 玲緒奈と里緒奈も俺と同じ気持ちだったようで何とも言えない顔をしていた。とりあえず俺達は山頂という看板の前で写真を撮り、その後上社神蹟に参拝する。


「涼也、お姉ちゃん見て。あそこに無料のおみくじがある」


「へー、無料でおみくじを引けるなんて結構珍しいな」


「せっかくだから三人で引こうよ」


 玲緒奈の提案で俺達はそれぞれおみくじを引く事にした。こういう場所で引くおみくじの内容は結構当たりそうな気がするので良い結果が出て欲しい。


「あっ、私は大吉だったよ」


「えっと俺は……凶後大吉って書いてある」


 玲緒奈が大吉を引いて喜んでいる事に対して俺は凶後大吉という生まれて初めて見る結果のおみくじを引いて少し戸惑っていた。

 恐らく最初は凶で後から大吉になるという言葉の通りの意味なのだろうが、果たしてこれは素直に喜んでも良いのだろうか。凶の内容次第ではその後にやってくる大吉が霞む気がするんだけど。


「里緒奈はどうだったの?」


「私は大大吉」


「えっ、それって絶対大吉より上だよね? 凄いじゃん」


「大大吉も初めて聞くな」


 大大吉という結果が嬉しかったのか里緒奈はどこか得意げな表情を浮かべていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る