第84話 じゃあ涼也の攻略は順調に進んでるって認識しておく

 三人で映画の里の様々なアトラクションを遊び尽くした頃には夕方になっていた。そろそろホテルに戻り始めなければならない時間だろう。


「映画の里は初めてだったけど楽しかったね」


「ああ、久々にはしゃいだ気がする」


「思い出がたくさん出来た」


 俺達は借りていた衣装を返却した後そんな会話をしながら映画の里を後にする。手裏剣道場は勿論、忍者迷路やカラクリ屋敷など映画の里ならではのアトラクションは俺達を大いに盛り上がらせた。

 修学旅行の自由行動なんて苦痛でしかないと思っていたが今回に関しては本当に楽しかったため玲緒奈と里緒奈には感謝しかない。


「二人のおかげで楽しかった、マジでありがとう」


「おっ、涼也君がそんなふうにデレるなんて珍しいね」


「普段の涼也なら思ってても絶対に言わない」


「……そう言いたくなるくらい楽しかったって事だよ」


 二人から盛大にいじられた俺は恥ずかしいと思いつつもそう口にした。やっぱりこういう事はちゃんと本人に直接言うべきだと思ったので珍しく頑張ったのだ。


「そっかそっか、今回涼也君をデレさせられたのは私と里緒奈の頑張りのおかげって事だね」


「じゃあ涼也の攻略は順調に進んでるって認識しておく」


「その言い方だとまるで俺が恋愛シミュレーションゲームの攻略対象みたいに聞こえるんだけど」


「そうなると私と里緒奈がプレイヤーだね」


「そういう構図になるな」


 もし仮にそんな恋愛シミュレーションゲームがあったとしても明らかにモブキャラな俺を攻略しようとする奴は全ルート攻略しないと気が済まないやり込みプレイヤーと一部の物好きしかいないに違いない。


「ちなみに私と里緒奈は涼也君を完全攻略するつもりだから」


「私もお姉ちゃんもやるなら徹底的にやる、絶対に手は抜かない」


「俺を攻略するのはかなり難しいと思うぞ」


 二人が先程の恋愛シミュレーションゲームネタを絡めて話しかけてきたため俺はそう返した。今日はやけにノリが良いな。


「もう既に主要なフラグとかイベントは攻略済みだから大丈夫」


「後は仕上げに入るだけ」


 そう口にした玲緒奈と里緒奈はいつも通りのテンションに見えたが、何故か体から禍々しいオーラが出ているような錯覚を覚えた。もしかすると俺は何かとんでもない思い違いをしているのかもしれない。

 それから俺達はバスを乗り継ぎ四条河原町のホテルまで戻ってきた。同じタイミングで他の班も続々とホテルに戻ってきていたためロビーはごった返している状況だ。

 自由行動を終えて戻った事を教師に報告した俺は二人と別れて部屋に戻る。報告の際に教師から鍵を渡されたためこの部屋のメンバーの中では俺が一番最初に戻ってきたようだ。

 荷物を置いて適当にくつろいでいると突然部屋がノックされる。同じ部屋のメンバーが戻ってきたのかなと思い一言返事をすると扉が開きそこには予想外の人物が立っていた。


「涼也君、暇だったから遊びにきてあげたよ」


「これで涼也も寂しくない」


「おい、ちょっと待て!?」


 なんとそこには玲緒奈と里緒奈がいたのだ。言うまでもなく男女で部屋の行き来をする事は禁止されている。バレたら教師陣から大目玉を食う事はほぼ確実だ。下手をすれば俺達のせいで学年集会が開かれるかもしれない。


「誰かに見られたら不味いから今すぐ帰ってくれ」


「えー、別にいいじゃん」


「ちょっとくらいならバレない」


 何とかして二人を追い返そうとする俺だったが、玲緒奈も里緒奈も帰ろうとしない。ちょうどそんなタイミングでエレベーターの到着音が聞こえてくる。


「やばい、この階で止まったっぽいぞ!?」


「とりあえず隠れよう」


「こっち」


 玲緒奈と里緒奈は部屋の中に入ってくる俺の手を掴む。そしてそのまま三人で押し入れの中に入った。それと同時に部屋の扉が開く音が聞こえてくる。間一髪だったらしい。


「なあ、俺まで押入れの中に入ったら外に出るタイミングが分からないと思うんだけど……?」


「ごめんごめん、ついうっかり涼也君の腕を掴んじゃった」


「お姉ちゃんに悪気はないと思う……多分」


 絶対悪気しかない気はするが今はそれどころではない。二人が隠れただけなら俺が上手く立ち回って外に出るタイミングを作れたがこの状況ではそれも無理だ。


「……それでこれからどうするんだ?」


「うーん、どうしようか。里緒奈、なんか良さそうな案はない?」


「今考え中」


「いやいや、二人ともノープランなのかよ」


 部屋の中には自由行動を終えて戻ってきた同室のメンバー達がいるため迂闊に出られない。俺を押入れに引き摺り込んだ二人には何か名案があるのではと期待したが何も考えていなかった。


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カクヨムコン用の新作『俺を恋愛弱者だと揶揄ってくる義理の三姉妹からガチ恋されていた件』を公開しました!

https://kakuyomu.jp/works/16818093086422120550


本当は1月過ぎてから公開予定でしたが、読者選考の期間が短くなると不利になるかもと思いこのタイミングで公開しました〜


本作とは少し系統の違う作品ですが、良ければフォローだけでもお願いします!!

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