第82話 なんだ、涼也君も知らなかったんだ
チンアナゴパフェを食べ終わった俺達は府立水族館を出
て次の目的へと移動を始める。次は右京区の太秦にある映画の里だ。
映画の里は時代劇の撮影セットを通じて体験できるテーマパークとなっておりアトラクションも充実しているため一日中楽しめる場所らしい。しばらくの間バスに揺られて目的地に到着した俺達はチケットを買って早速中に入る。
「まるで江戸時代にタイムスリップしたみたいな景色だな」
「夏休みのオープンキャンパスが終わった後に三人で行った場所にちょっと似てるよね」
「確かにこの景色を見ると倉敷美観地区を思い出すよな」
「あれからもう一ヶ月くらい経つ、時間が経つのはあっという間」
あそこは江戸時代から続く白壁の町並みや町家などの伝統的な建物が保存されている地域なので、再現されているこの場所とは少しコンセプトが違うが親近感は湧いた。
「とりあえず事前に話してた通り衣装をレンタルしに行こうぜ」
「そうだね、里緒奈は何を着るか決めた?」
「さっきまで悩んでたけど決まった、お姉ちゃんは?」
「私も決まったよ」
映画の里では時代劇などに登場するキャラクターの様々な衣装をレンタルする事が出来る。せっかく映画の里に行くなら衣装ん着てみたいと里緒奈が言ったため全員でレンタルする事にしたのだ。
「着替えてくるから、終わったらこの辺で待ってるぞ」
「うん、涼也君の衣装も楽しみにしてる」
「私とお姉ちゃんのも楽しみにしてて」
俺達はレンタル店に入り借りる衣装をスタッフに伝えた後、別れてそれぞれ着付けをして貰う。ちなみに俺が選んだのは新撰組の土方歳三の衣装だ。
土方歳三という人物に対して特に思い入れはなく、ただ衣装が格好良く男心がくすぐられたからという理由だけで選んでいたりする。
俺の着付けが終わってしばらく待っていると里緒奈が先に出てきた。里緒奈は忍者のコスチュームを選んだらしい。忍者姿の里緒奈はめちゃくちゃ様になっていた。
「里緒奈は忍者を選んだのか」
「そう、くノ一姿の衣装を着てみたかった。涼也が着てるのは土方歳三?」
「正解、よく分かったな」
「戊辰戦争の時の衣装はかなり有名」
相変わらず里緒奈は物知りだ。どうやったらそんなにも色々な事を覚えられるのか一度詳しく教えて欲しい。そんな事を考えていると玲緒奈も着付けを終えて出てくる。
「二人ともお待たせ」
「なるほど、玲緒奈は舞妓を選んだんだな」
「うん、やっぱり京都と言ったらこれかなと思ってさ」
「お姉ちゃんによく似合ってる」
可愛らしい里緒奈に対して玲緒奈は大人っぽさが出ていてとにかく綺麗という言葉しか出てこない。その証拠に周りにいる男達から見られまくっていた。
「里緒奈がくノ一ってのは分かるんだけど涼也君のそれは何?」
「これは新撰組の土方歳三の衣装だぞ」
「あっ、新撰組は聞いた事ある。どんな組織だっけ?」
「え、えっと……」
俺も玲緒奈と同じく新撰組という名前くらいしか知らないため言葉に詰まってしまう。すると隣にいた里緒奈が口を開く。
「新撰組は江戸時代末期に京都治安維持のために結成された組織、土方歳三以外のメンバーだと近藤勇とか沖田総司が有名」
「らしいぞ」
「なんだ、涼也君も知らなかったんだ」
「ぶっちゃけ衣装はデザインの格好良さだけで選んだからな」
そんな話をしながら俺達はレンタル店を出る。全員衣装に着替え終わったためようやくこれから本格的に散策開始だ。
「あっ、あそこの橋の前で写真を撮ろうよ」
「分かったからあんまり強く手を引っ張るなって」
ハイテンションな玲緒奈に手を引かれて俺は橋の前に行く。玲緒奈からナチュラルに手を繋がれた俺だが慣れとは怖いもので自然に受け入れてしまっていた。そのうち何をされても気にしなくなるかもしれない。
「もっと近くに寄って……じゃあ撮るよ、はいチーズ」
俺は玲緒奈と里緒奈の間に挟まれて写真を撮った。写真には土方歳三姿の俺とくノ一姿の里緒奈、舞妓姿の玲緒奈が写っていたため中々インパクトがある。
「また後でいつも通りSNSにあげるから」
「ああ、好きにしてくれ」
「ちなみに涼也の写ってる写真をアップしたら毎回涼也のママがすぐにいいねをくれる」
「えっ、母さんもフォロワーなのか!?」
母さんが玲緒奈のSNSのフォロワーという衝撃の事実を知って俺はそう声をあげた。って事は今までのあんな写真やこんな写真も母さんは見てるって事だよな。
うわ、マジかよ。澪ならまだしも母さんに見られるのはいくらなんでも恥ずかし過ぎるんだけど。てか、そもそも母さんがあんなリア充向けのSNSをやっていた事自体がかなり意外だ。
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