第81話 あれは間違いなく”涼也君”が浮気してたっぽいよね

 玲緒奈と里緒奈がドクターフィッシュに満足するまで待った後、俺達は三人で再び館内を回り始める。チンアナゴを見た里緒奈が先程のオオサンショウウオを見た時と同様嬉しそうに写真を撮っていたのでキモ可愛いのが好きなのかもしれない。


「カフェでチンアナゴパフェが食べられるみたい、涼也とお姉ちゃんも後で一緒に食べよう」


「へー、そんなパフェがあるんだ。私も食べてみたいかも」


「チンアナゴパフェっていう言葉のインパクトだけでもうお腹いっぱいになりそうなんだけど」


 そんな話をした後も引き続き水族館の中を見て周りそろそろ一周し終わるくらいのタイミングで複数人の男女の言い争う声がどこからともなく聞こえてくる。


「ちょっと、涼也。隣にいる女は誰よ?」


「あんたこそ誰よ。涼君の彼女ですが何か?」


「何言ってんの、彼女は私なんだけど?」


「ふ、二人ともとりあえず落ち着いてくれ」


「この状況で落ち着けるわけないでしょ」


「そこは同感ね、どういう事か涼君の口から説明が欲しいんだけど?」


 声の聞こえてきた方向を見るとそこではギャルっぽい女性と眼鏡をかけたバリキャリ風な女性が一人の男性を挟んで揉めていた。

 これは完全に俺の推測にはなるが多分男性が二股を掛けていたのだろう。その証拠に男性は青白い顔をしている。男性は俺と同じ涼也という名前だったが長身なイケメンでいかにもモテそうな外見をしていた。

 つまり俺の嫌いなリア充であり憎むべき敵と言えるだろう。しかも浮気までするなんて同じ涼也の風上に置けないクズ野郎だ。

 周りからめちゃくちゃ見られている事に気付いた三人は相変わらず言い争いをしながら出口の方へと向かっていった。多分この後はカフェかどこかに移動して修羅場の続きを繰り広げるに違いない。


「なんか凄い場面に遭遇したな」


「あれは間違いなく”涼也君”が浮気してたっぽいよね」


「うん、完全に”涼也”が悪い」


「……二人が言ってる涼也が俺じゃないって分かっててもなんか複雑なんだが」


 玲緒奈と里緒奈の口から涼也を責める言葉が出てくると地味にダメージを受けてしまう。よりにもよって何でさっきの浮気男の名前が涼也なんだよ。


「心配しなくても私達の涼也君は浮気なんてしない事はちゃんと私も里緒奈も知ってるよ」


「私達の涼也が浮気なんて出来るはずがない」


「俺の場合は好きになった相手に一途なタイプだし」


 まあ、そもそも俺の人生で彼女が出来る可能性なんて限りなくゼロに等しいのだが。それに万が一何かの間違いで彼女が出来たとしてもそれは宝くじの一等当たるよりも幸運な気がするので次の相手なんてまず出来ない。


「ちなみに私と里緒奈は浮気にはめちゃくちゃ厳しいタイプだからよろしく」


「もし浮気されたら何をするか分からない」


 そう口にした瞬間の二人の瞳は何も映していない漆黒の黒だった。玲緒奈と里緒奈の独占欲が凄まじく強い事は知っているので二人と付き合って浮気した男は間違いなくただでは済まないだろう。


「彼氏が自分の姉妹に二股を掛けるのは許せるのに他人はダメなんだな」


「前から言ってるとは思うけど私と里緒奈は一心同体だからね」


「もしお姉ちゃんと私が一卵性の双子じゃなかったら結果は違った」


 やはり玲緒奈と里緒奈の中で一卵性の双子というのは重要な要素のようだ。 今後二人と付き合う男がどんな奴なのかは分からないが地獄を見たくなかったらそこだけは注意しないとマジで地獄を見る事になるだろう。


「じゃあさっき約束した通りチンアナゴパフェを食べに行こうよ」


「そう言えばそうだったな」


「早く食べたい」


 俺は玲緒奈と里緒奈に手を取られて引きずられているのではないかと思うくらいの勢いでカフェへと向かう。そして店員の案内でテーブルに着いた俺達はチンアナゴパフェを注文した。


「どんなのかと思ったらチンアナゴをモチーフにしたポッキーが刺さった普通のマンゴーパフェって感じなんだな」


「あっ、もしかして涼也君は本物のチンアナゴを食べるとかって思ってた?」


「いやいや、流石にそれはないぞ。てか、そもそもチンアナゴって食べられるのか?」


 俺がそう疑問の声を上げるとすぐに里緒奈が答えてくれる。


「チンアナゴは私達が普段食べてるマアナゴの亜種で食用じゃないから普通は食べない」


「やっぱりそうだよな」


「お寿司とかで食べてるアナゴはマアナゴって名前なんだ」


 やはり里緒奈はめちゃくちゃよく知ってるな。マジで何を聞いても知ってるし何でも知ってるんじゃないだろうか。そう思った俺は里緒奈に聞いてみる。


「前から気になってたんだけど里緒奈って知らない事とかあるのか?」


「何でもは知らない、答えられるのは私が知ってることだけ。例えばよく恋愛相談もされるけど付き合った経験が無くてよく分からないから上手く答えられていない」


「だね、私も友達からよくされるけど毎回困ってるんだよね」


「そっか、やっぱり里緒奈でも知らない事はあるんだな」


 どうやらリオペディアにも穴はあったらしい。まあ、俺や玲緒奈と同じ高校二年生でこれだけ色々な事を知っているだけでも十分凄いか。そんな事を考えているうちにお待ちかねのチンアナゴパフェが運ばれてくる。


「おー、実物を見てもめっちゃチンアナゴっぽい」


「だな、上手い具合に表現されてる」


「美味しそう」


 いつも通りSNS用の写真を撮り始める玲緒奈に対して里緒奈は目を輝かせながらチンアナゴパフェを食べ始めた。二人は今日も平常運転だ。


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この作品を読んでる方であれば読んだ事がある方も多いと思いますが、作者の別作品である


『どうやら俺は今どきギャルな歳上幼馴染から激重感情を向けられているらしい』

https://kakuyomu.jp/works/16817330669706182980


のコミカライズ版が11/22よりスタートしています!


同じ現実世界ラブコメなので本作を楽しめている方には多分面白いと思って貰える内容なので良ければ作者のXに貼ってあるリンクからお願いします!


ちなみに実はコミカライズの作家紹介欄で本作の事が触れられていたりします(小声

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