第79話 今年の学園祭は一生忘れられない思い出になる

 それから御本殿まで来た俺達は参拝の列に並ぶ。先ほど目にした縁切り縁結び碑はこの御本殿に参拝した後に御祈願する流れらしい。そこで切りたい縁を切り離し結びたい縁を結ぶそうだ。


「やっぱりここも結構並んでるな」


「縁切り縁結び碑にも皆んな並んでたし時間が掛かりそうだね」


「皆んなそれが目的で来てる」


 そんな会話をしながら順番が回ってくるのを待つ。平日でこれなら土日は凄まじい長さの列になるに違いない。まるで遊園地のアトラクションだ。


「そう言えば修学旅行が終わったらすぐ学園祭の準備だよな」


「だね、来月だからすぐ準備に入る感じかな。二年生は演劇担当だからその辺の練習と小道具作成とかが中心になりそう」


「考えただけで今から憂鬱なんだけど」


 天木高校の学園祭は他の学校でいうところの文化祭と体育祭を合体させたような行事となっていて二日間が文化の部、残り一日が体育の部となっている。

 三学年が一つのチームとなって勝負する学校の一大イベントだが俺のようなぼっちには辛い上に面倒なイベントでしかない。学園祭を青春として楽しめるのは学内の上流階級層だけだ。

 だから以前この話題になった時も同じような愚痴をこぼした記憶がある。そんな事を思い出していると玲緒奈はニコニコした表情で口を開く。


「涼也君の名演技に期待してるからよろしく」


「いやいや、どう考えても俺は裏方だろ。それかセリフのないモブキャラか」


「涼也が学園祭を楽しめるように今年の演劇には主要キャラクターとして参加して貰う」


「えっ、マジ!?」


 何の演劇をするかにもよるが主要キャラとなると覚えるセリフが多くかなりの練習が必要になるし周りとも連携しなければならないため絶対に嫌なんだが。


「私と里緒奈が全力でバックアップするから一緒に頑張ろうね」


「今年の学園祭は一生忘れられない思い出になる」


「……そうだな、適度に頑張るわ」


 全く乗り気になれない俺だったが玲緒奈と里緒奈がめちゃくちゃノリノリなためとても嫌とは言えそうな空気ではない。

 しばらく学園祭の話題で雑談しているうちに列が進み俺達の番がやって来た。相変わらず参拝の作法は知らないため適当だがこういうのは気持ちがあれば大丈夫だろう。


「よし、次は形代を書こうか」


「何を書くかマジで悩むな」


「私とお姉ちゃんはもう決まってる」


 身代わりのおふだである形代を三人分手に取り俺達はそれぞれ書き始める。形代の内容には切りたい縁や結びたい縁を書くため俺は悩んだ結果、ネガティブに考え過ぎてしまう悪い癖を無くしたいと書いておいた。


「涼也君も里緒奈も書けたみたいだしいよいよお待ちかねの縁切り縁結び碑に行こうか」


「二人は何を書いたんだ?」


「私もお姉ちゃんも涼也の悪縁を断ち切る内容を書いた」


 二人は形代を俺に見せてくれたが玲緒奈は八神涼也に近付く邪魔者と彼の縁を全て断ち切りたいと書いており、里緒奈は過去現在未来の全てで八神涼也にふさわしくない人間と彼の縁を断ち切りたいと書いていた。

 うん、想像していたよりもずっと凄まじい。こんな事を書かれるとますますぼっちが加速しそうな気しかしないんだが。

 そんな事を考えながら縁切り縁結び碑の列に並ぶ。こちらも先程の御本殿と同様そこそこ長い順番待ちの列が出来ていたため雑談しながら待った。


「じゃあ俺から行ってくる」


「うん、行ってらっしゃい」


「涼也の勇姿はバッチリ見ておく」


 俺は形代を手に持って碑の表から裏へ穴をくぐり、次に裏から表へとくぐる。表からくぐることで悪縁を断ち切り、裏から表へくぐって良縁を結ぶ効果があるらしい。そして最後に形代を碑に貼り付けて御祈願完了だ。

 ちなみに穴は大人がなんとか通れるほどの大きさだったため結構狭かった。小柄な俺でもこんな感じなのだから大柄な人は大変に違いない。

 その次の玲緒奈は特に問題なく碑をくぐっていたが里緒奈の番になって問題が起こる。何とスカートが何かに引っかかって盛大にめくれそうになってしまったのだ。


「っと、ギリギリセーフ」


「里緒奈危なかったね」


「……涼也ありがとう」


 パンティが公衆の面前で丸見えになる前に何とか悲劇を阻止する事には成功した。玲緒奈がたまに言っているようにドジっ子属性は相変わらずのようだ。

 普段のクールな里緒奈からは全然想像出来ない姿にちょっとギャップ萌えを感じた事は内緒にしておく。もしそんな言葉を口に出したら二人に思いっきりいじられそうだし。

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