第4章

第78話 何というか現代社会の闇を感じるな

 一夜が明けで修学旅行二日目に突入した。今日一日は班で決めた場所へ行ってそれぞれで観光をする自由行動の日だ。

 ホテルを出た俺達は修学旅行前のホームルームで決めた安井金比羅宮の目の前にいる。四条河原町にあるホテルから近かったためここを最初の目的地に選んだらしい。


「ここが安井金比羅宮か、鳥居の下にも悪縁を切り良縁を結ぶ祈願所って書かれてあるし何か雰囲気も出てるじゃん」


「だね、最強の縁切り神社って言われるのも分かる気がするよ」


「それにしても思ったよりも人が多いな」


 まだ早い時間なのと誰もが知っているような有名観光地ではないのでそんなに人がいないと思っていた事もあってガラガラだと思っていた。


「土日に来ると一時間くらい行列が出来るくらいには人気」


「うん、テレビとかSNSのおかげで知名度がめちゃくちゃ上がったから」


「マジか、てか皆んなそんなに縁を切りたい相手がいる事に驚きなんだけど」


 そんな話をしながら俺達は鳥居をくぐり参道を進んでいく。本殿に向かう参道の左右には立ち並ぶ木々と赤い街灯が立っており、地面の石畳と組み合わさって非常に綺麗な景色を生み出している。

 今は制服姿だが着物を着てここを歩くとめちゃくちゃ映えそうだ。実際に着物でここに来ている人もちらほらいる。


「ちなみにここの縁切りって人間関係以外にも効果があるらしいよ」


「人間関係以外?」


 玲緒奈の口から出た人間関係以外という部分にイマイチピンと来なかった俺はそう聞き返した。すると里緒奈が口を開く。


「例えば病気やアルコール依存みたいな悪縁も断ち切れる」


「なるほど、人間関係以外ってそういう事か」


「そうそう、だから涼也君も何か悪い習慣があるならここで断ち切ったら良いかもしれないよ」


 それなら物事をネガティブに考え過ぎてしまう昔から悩みの種だった悪癖を今回の機会で断ち切りたい。昨日もホテルから脱げ出して二人に心配をかけてしまったわけだし。


「……てか、さっきから結構エグい内容の絵馬ばかりが目に入ってくるのは俺だけか?」


「あっ、それは私も思ってた」


 参道の道中には奉納された様々な絵馬がかけられていたが目に入ってくる内容がパワハラ支店長が離島の支店に左遷されますようにや、旦那と無事に離婚できますようになどのめちゃくちゃ不穏な内容ばかりだった。

 俺の勝手なイメージだが絵馬にはもっと前向きでポジティブな内容を書くのが普通だと思っていたためかなり驚いている。


「縁切り神社ならではの内容を皆んな書いている」


「何というか現代社会の闇を感じるな」


「でも縁結びのご利益もあるからそれに関する内容を書いてる人もいるっぽいよ」


 玲緒奈が指差した絵馬には今年こそ三次元の彼女を作れますようにと書かれていた。そう言えばここの神社って鳥居にも書いていたようにただ悪縁を切るだけではなく、その後良縁を結ぶ事が目的だったっけ。

 そんな事を考えながら歩いているうちに手水舎に到着した。相変わらず作法はよく知らないため適当だがこういうところでは気持ちが大事だと思っているため気にしない。

 そして手水舎を出て境内に入ると謎の物体が目に飛び込んでくる。高さは俺の身長より少し低めで幅は三メートルくらいありそうなそれには大量のお札がびっしりと貼られていた。


「あそこに凄まじく不気味な何かがあるんだけど何か知ってるか……?」


「あれは縁切り縁結び碑って呼ばれる安井金比羅宮の霊石」


「私達が今日ここに来た目的は縁切り縁結び碑に祈願をするためだから」


「もう見た目のインパクトが強過ぎて既にお腹いっぱいなんだけど」


 何も知らない人に縁切り縁結び碑の写真を見せたらやばい何かを大量のお札で封印している曰く付きのスポットにしか見えないのではないだろうか。後で澪に写真を送りつけてどんな反応が返ってくるか試してみよう。

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