第76話 だから私がオッケーなら何も問題はない
その後ソフトクリームを食べ終わった俺達は再び移動を開始し目的地である竹林の小径に到着した。商店街などで賑わっていたメインストリートとはガラッと雰囲気が変わり、都会の喧騒から離れた落ち着いた光景が広がっている。
「テレビとかでは何度も見た事あったけど、やっぱりこの景色が良いよね」
「確かにこれぞまさに日本の風景って感じだもんな」
「この感じが好き」
さわやかな風に竹の葉が揺れ、心地のよい音と差し込んでくるやさしい木漏れ日は本当に最高だ。里緒奈曰く平安時代には貴族の別荘地だったとらしいが、これだけの絶景なら納得出来る。
ただやはり人気の観光地という事でかなり混雑しており人が写らないように写真を撮るのは本当に一苦労だった。綺麗な写真を撮ろうと思ったら早朝など人が少ない時間帯を狙った方がいいかもしれない。
そんな事を考えながら三人で竹林の小径を歩いているとスマホを操作していた玲緒奈が明らかにだるそうな表情を浮かべる。
「……ごめん、ちょっと近くにいる友達に呼ばれたから少しだけ待ってて」
「いってらっしゃい」
あの表情的にあまり気乗りしない内容だと思うが一体何の用事で呼び出されたのだろうか。
「涼也はお姉ちゃんが気になる?」
「あんな表情をしてたらな」
「じゃあこっそり着いていこう」
「えっ、それっていいのか?」
「大丈夫、私達は一心同体だからお姉ちゃんの言葉は私の言葉でもある。だから私がオッケーなら何も問題はない」
ストーカー行為ともいえる提案に罪悪感を覚える俺だったが里緒奈がはっきりとオッケーを出したので後をつける事にした。
適度な距離を保ちつつ里緒奈と一緒に尾行しているが気付かれないかドキドキだ。少しして玲緒奈が立ち止まったため少し離れたところから見守っていると見た事がある顔の男子生徒が現れる。
話した事はほとんどないがバスケットボール部に所属するエースで高身長なイケメンのため流石の俺でも知っていた。
それを見て俺はこれか何が始まるのか即座に理解した。恐らくこれから玲緒奈に告白するはずだ。竹林の小径は告白スポットらしいし間違いないだろう。
あのくらいのスペックなら玲緒奈とも釣り合うはずだと思いつつ、さっきから胸の奥がチリチリして痛い。俺と玲緒奈が付き合う可能性なんて無いはずなのにとにかく強い焦燥感を覚えている。
「剣城さん、急な呼び出しだったのに来てくれてありがとう」
「人を待たせてるから要件は手短にお願いね」
「なら単刀直入に伝えるけど、僕と付き合ってくれない?」
予想通りバスケ部のイケメンは玲緒奈に告白した。恐らく普通の女子なら喜んで即答するに違いない。だが玲緒奈は違った。
「ごめんね、気持ちは嬉しいんだけどそれは出来ないかな」
なんと玲緒奈は速攻で断ってしまったのだ。はっきり言って悩むそぶりすら無かった。なぜ断ったのか不思議に感じる自分がいる一方で安心する自分もいたため本当に単純だ。
振られたバスケ部のイケメンは残念そうな表情を浮かべて玲緒奈の前から去って行ったが、悪態などは一切ついていなかったため普通に中身もイケメンらしい。でもさっさのイケメンですら振られるなら一体どんな男なら玲緒奈と付き合えるのだろう。
「お姉ちゃんにバレる前にさっきの場所に戻ろう」
「ああ、そうだな」
俺達はその場から立ち去り先程いた場所に戻る。しばらくして玲緒奈は何事もなかったかのような表情で戻ってきた。
玲緒奈くらいになると今まで数え切れないくらい告白された事があるはずなので慣れているのだろう。あり得ない事だがもし俺が女の子から告白されるような事があれば平静を保てる自信がない。
「お待たせ」
「おかえり、別にそんなに待ってないから大丈夫だ」
「涼也と楽しくおしゃべりしてた」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ観光に戻ろうか」
俺達は再び三人で竹林の小径を歩き始めた。俺と里緒奈は何の用事があったのかについては特に触れず、逆に玲緒奈もその話題を出さなかったのでさっさの告白は知らないていになっている。
だが先程の告白を見てやはり俺と玲緒奈や里緒奈は違う世界の住人である事を再認識させられた。俺なんかがいつまでも二人と一緒にいても良いのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます