第75話 私と里緒奈の事をしっかり守ってね

 それから清水寺を出た俺達は途中で昼食を挟んだ後、嵐山にやって来ていた。バスを降りた俺達はその足で渡月橋に来ている。


「やっぱり嵐山と言ったら渡月橋だよね」


「嵐山のシンボルだもんな」


「うん、景色も綺麗」


 嵐山は基本的に自由行動のため他の同級生達はそれぞれ自分の行きたい場所へと散っていったが、渡月橋目当てで俺達と同様こっちに来ている人達は多かった。

 ぶっちゃけ嵐山の事を全く知らない俺ですら渡月橋という名前は知ってる有名なスポットのため先程の清水寺と同様めちゃくちゃ混雑している。


「きゃっ!?」


 渡月橋の上で立ち止まって景色の写真を撮っていた里緒奈は誰かにぶつかられたらしくその衝撃で転びそうになってしまう。


「っと、ギリギリセーフだな」


 俺は里緒奈を咄嗟に抱き止めて地面への激突を未然に阻止した。


「涼也ありがとう」


「涼也君って普段はあれだけどたまにかっこいい事をするよね」


「おい、そこ。普段はあれとかたまにはって一言は余計だ」


「ごめんごめん」


 せっかく里緒奈を助けたというのに散々な言われようだ。そんな事を思っていると二人は左右から腕を絡ませてくる。


「急にどうしたんだ?」


「涼也とくっ付いていれば誰かに押されても倒れずに済む」


「私と里緒奈の事をしっかり守ってね」


「……分かったよ」


 周りの観光客達からじろじろ見られており明らかに悪目立ちしていたが、もう既に耐性が出来ている俺にはダメージゼロだ。そんな状態のまま渡月橋を渡り終えた俺達は次に行く場所について話し始める。


「次は竹林の小径に行かない?」


「賛成、嵐山に来たら竹林の小径は外せない」


「そこってどんな場所なんだ?」


「その名の通り竹林が立ち並ぶ四百メートルの道で嵐山の中では渡月橋と同くらい人気の観光地」


「この写真の場所だよ」


「あっ、ここだったのか」


 玲緒奈が俺に見せてきたスマホの画面には道の両脇に空を覆うほど高く立ち並んでいる竹林の写真が表示されていた。

 この光景はテレビの京都特集などで見た事があったので知っている。確か陽キャに人気の告白スポットでもあったはずだ。

 ひとまず目的地が決まったため俺達はスマホの地図アプリを見ながら相変わらず腕を組んだまま竹林の小径を目指して歩き始める。その道中には商店街がありかなり賑わっている様子だ。


「甘いものが食べたい気分だしさ、何か買わない?」


「そうだな、お昼にはデザートも無かったしちょうど俺も甘いものが欲しかった」


「それなら抹茶のスイーツが食べたい」


「確かに京都といえば抹茶だもんね」


 早速俺達は商店街のお店で抹茶のソフトクリームを購入した。玲緒奈がSNSにアップする用の写真を撮っているらしい姿を横目で見ながら俺はソフトクリームを一口パクりと食べる。


「濃厚でめちゃくちゃ美味しいな」


「流石抹茶の本場なだけの事はある」


「澪へのお土産は抹茶系のお菓子にしようかな」


 俺と里緒奈がそんな会話をしている間も玲緒奈は相変わらずソフトクリームの写真を撮っていた。多分何枚も撮ってその中からベストショットを選ぶのだろう。早く食べないと溶けるぞとはわざわざ突っ込まなかった。


「涼也ほっぺにクリーム付いてる」


「えっ、どの辺だ?」


 そう口にしながらポケットの中からティッシュを取り出そうとしていると里緒奈は顔を近付けてくる。そしてそのまま俺の頬に口付けをしてきた。


「これで綺麗になった」


「急に何するんだよ!? 普通に教えてくれるだけで良かっただろ」


「教えるより私が直接取った方が絶対早かった」


 里緒奈はいつも通りすました顔をしているように見えたが、その表情の中にほんの少しだけ羞恥心も混ざっている様子だ。


「ちょっと、里緒奈。私抜きで涼也君とイチャイチャしないでよ」


「ごめん、じゃあ次はお姉ちゃんにもちゃんと声をかける」


「いやいや、もう流石に次はないからな」


 いくら俺がぼっちなモブキャラBでも高校二年生にもなって何度も自分のほっぺにソフトクリームを付けるほど間抜けではない。

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