第74話 その気持ちだけでも嬉しかったよ
そんな事を思いながらしばらく里緒奈と二人で待っているうちに列はどんどん進み、気付けばもうすぐ俺達の順番の直前だ。それなのに玲緒奈が戻ってくる気配が全くない。
「お姉ちゃん全然帰ってこない」
「マジでどうしたんだろ?」
状況を確認するためポケットからスマホを取り出して電話をかけてみると、玲緒奈のハンドバッグの中から着信音が流れ始める。
「おいおい、スマホを持っていってないのかよ」
「それで何も連絡がなかったみたい」
心配する俺達だったが玲緒奈は順番になっても帰ってこず後ろで並んでいる人も大勢いたため仕方なく二人だけで水を飲む事にした。
「もしかしたら何かのトラブルに巻き込まれてるかもしれないし手分けして探そう」
「分かった、私はこっちに行くから涼也はあっちをよろしく」
「見つかったらすぐに連絡する」
俺と里緒奈は二手に分かれ玲緒奈を探し始める。清水寺の中にはトイレが三箇所あるため分かれて探した方が効率は良い。
とりあえず俺は音羽の滝のすぐ近くにあったトイレに向かったがそこにはいなかった。そのため次に入り口近くのトイレに向かう。
するとその道中で玲緒奈を発見したが一人ではなかった。なんと玲緒奈の前にはヨーロッパ系の外国人三人組が立ち塞がっていたのだ。
その上全員が筋骨隆々で百九十センチ以上あるように見えるため対峙すると凄まじい圧迫感があるはずだ。だが玲緒奈を見捨てる事なんて出来るはずがない。だから俺は四人の間に割り込んだ。
「えっ、涼也君!?」
俺の姿を見た玲緒奈は驚いたような表情を浮かべた。すると三人組が何かを話し始める。それに対して玲緒奈は英語で受け答えをしていたがその顔に恐怖などは一切無かった。
悪質なナンパだと思って助けに入ったが実は違うパターンじゃね。英語が全然分からないため四人が話している内容はさっぱりだが揉めている様子は全く無いし。そう思っているうちに三人組は手を振りながら去って行った。
「……なあ、さっきの三人は何だったんだ?」
「ああ、この後伏見稲荷に行きたかったみたいで行き方を聞かれたから教えてあげてたんだよ。スマホが無かったせいでめちゃくちゃ説明に手間取って大変だったんだから」
「なるほど、だから全然帰ってこなかったのか」
「そうそう、流石に困ってるまま放ってはおけなかったし」
ひとまずトラブルには巻き込まれていなかった事が分かったため一安心だ。とりあえず里緒奈に玲緒奈を見つけた事をメッセージで連絡しておこう。
「あっ、もしかして私がナンパされてると思った?」
「あの場面を見たら誰でもそう思うだろ」
「そっか、私を助けてくれようとしたんだ」
「結局はただの勘違いだったけど」
ナンパされてると思って勇気を出して助けにいったら実は違ったってまあまあ恥ずかしい気がする。
「その気持ちだけでも嬉しかったよ」
「そう言ってくれるだけで救われるわ」
「でも私達以外の女の子の前では絶対そういう事はしちゃ駄目だから」
そう口にした玲緒奈の背後に一瞬だけ何かよく分からないが凄まじく恐ろしいものが見えた気がした。それから仁王門の階段下に移動した俺達はそこで里緒奈を待ち始める。
「あーあ、結局音羽の滝の霊水を飲めなかったから残念だな」
「もう一回順番待ちの列に並ぶと集合時間に間に合わないから仕方ない」
「まあ、でも里緒奈とは一心同体だから私にご利益があってもおかしくはないよね?」
「そうだといいな」
そんな会話をしていると視界に里緒奈の姿が入った。手には紙袋を持っているためここに来る途中で何か買ったのだろう。
「お待たせ」
「手に持ってるそれはパパやママへのお土産?」
「ううん、お姉ちゃんのために買ってきた」
そう口にした里緒奈は紙袋から中身を取り出す。里緒奈が取り出した縦長の箱には音羽霊水と書かれていた。
「あっ、それってもしかして」
「そう、お姉ちゃんが想像してる通り音羽の滝のお水」
「へー、滝の水も売ってるんだな」
「里緒奈ありがとう」
玲緒奈は嬉しそうな表情を浮かべて里緒奈に抱きついており見ているだけで非常に微笑ましい。やはり美少女同士の百合百合しい姿はそれだけで絵になるな。百合の間に挟まる男が嫌われる理由がよく分かる。
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