第73話 へー、相変わらず里緒奈は物知りだな

 しばらく玲緒奈と里緒奈から取り調べのごとく根掘り葉掘り聞かれて疲れ切ったところでようやく清水寺前の駐車場に到着した。

 バスから降りた俺達は周りと一緒に清水寺を目指して歩き始める。人気観光地という事もあってめちゃくちゃ人が多い。


「せっかく清水寺に来たんだから音羽の滝には行きたいよね」


「そこって確かパワースポットだっけ?」


「音羽の滝から流れる霊水には色々なご利益がある」


「へー、相変わらず里緒奈は物知りだな」


「修学旅行で行く観光地は全部予習してる」


 そんな話をしながら歩いていると清水寺の紹介写真などでよく見る鮮やかな朱色が美しい門が見えてきた。修学旅行のしおりによると仁王門という名前らしい。


「あっ、せっかくだしここをバックにして三人で写真を撮ろうよ」


「撮りたい」


「おい、急にくっ付いてくるな」


 清水寺坂を登り終え門の前にある階段前で立ち止まった二人は左右から俺を挟み込んでくる。同級生達からはまたあいつらかよという呆れの視線と俺に対する殺意の視線が入り混じっていた。

 それから玲緒奈は手際良く写真を数枚撮る。流石玲緒奈は手慣れている事だけあって写真はめちゃくちゃ映えていた。写真を加工して俺を消し美少女の玲緒奈と里緒奈だけにすればより映えるに違いない。


「じゃあ今の写真は早速SNSに投稿するね」


「好きにしてくれ」


 今まで何度か抵抗してきたが上手くいった試しがないのでもう諦めた。それに今まで俺と一緒に映った写真を何枚も投稿しているはずなので玲緒奈のSNSのフォロワー達もまたやってんなくらいにしか思っていないはずだ。

 その後は引き続き同級生達と清水寺を回り始める。西門や三重塔、経堂を通り過ぎて本堂までやってきた。今いる場所はことわざで有名な清水寺の舞台だ。


「やっぱりここからの景色は絶景だね」


「ああ、天気もいいから遠くまでよく見えるな」


「紅葉の時期だったらもっと綺麗だった」


 俺達はそんな会話をしながら景色を楽しんでいる。舞台からは京都市内の街並みが一望でき駅前の京都タワーまでしっかり見えており本当に良い景色だ。


「もしさ、ここから落ちたらめちゃくちゃ痛そうじゃない?」


「いやいや、絶対痛いどころじゃ済まないだろ」


「舞台から下までは十三メートルあるから運が悪かったら死ぬ」


 清水寺の舞台から飛び降りるということわざには死んだつもりになって一世一代の決断をという意味があるらしいが、ここから飛び降りるほど覚悟しなければならない事とはどんな内容なのだろうか。

 舞台の上で集合写真を撮り終えて次にやってきた場所はお待ちかねの音羽の滝だ。祠から伸びる水流が三本に分かれている事が特徴らしい。やはり人気スポットという事もあって順番待ちの列が出来ている。


「そこそこ待ちそうだけどこのまま待つか?」


「せっかくここまで来たから並びたい」


「私も里緒奈に賛成、でもその前にちょっとお花摘みに行かせてくれない?」


「分かった、俺と里緒奈で順番待ちしてるから」


「ありがとう、ちょっと行ってくるね」


 玲緒奈は手に持っていたハンドバッグを里緒奈に手渡すとそのまま歩いて行く。どのくらい待ち時間があるかは分からないが玲緒奈が戻ってくるまでは大丈夫だろう。


「ところでここのご利益には何があるんだ?」


「正面から見て右端が延命長寿で真ん中が恋愛成就、左端が学業成就という考えが一般的。言い伝えによっては健康と美容、出世のご利益があるとも言われてる」


「へー、色々あるんだな。どうせなら全部にあやかりたいんだけど」


「それは駄目、三本の中から一本選ぶ必要がある。そうしないと神様に欲深さを見抜かれて逆に願いが叶わなくなるから」


「マジか、それは嫌だ」


 恋愛成就はそもそも実現しないため問題ないが他の二つが叶わなくなるのは困る。特に来年は受験生になるため学業成就が叶わないのは最悪だ。欲張り過ぎるなという事なのだろう。


「ちなみに里緒奈はどのご利益を選ぶんだ?」


「私はまだ迷ってる」


「どれか一つしか選べないってなったら迷うよな」


 ちなみに俺も二択で迷ったが学業成就を選ぶ事にしていた。夏休みオープンキャンパスに行った岡山市立大学も今の学力では共通テストのボーダーラインに届くかすら怪しい。だからここはやはり学業成就一択だろう。


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書籍版の発売までに★1000を超えたいなと密かに思っているため、もしまだの方がいればぜひ★★★評価をお願いします!!

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