第72話 今の言葉はしっかり覚えておく
それから人数確認を終えてバスが出発する。次の目的地は清水寺だ。今まで行った事はないが歴史の授業などでも習ったためその名前は知っている。
「着くまでしばらく時間が掛かると思うけどそれまでは何をするつもりだ?」
「修学旅行と言えばやっぱり恋バナ、涼也と色々話したい」
「いやいや、それは夏休み前のお泊まりの時にもう散々話しただろ」
「えー、そうだったかな?」
「俺の記憶にはしっかりと残ってるから」
あの日は俺の隠していたエロ漫画のその他一式を発見された挙句風呂場に乱入してきて後に恋バナをさせられたため忘れるはずがない。
「ならあの時の続きからでいい」
「やっぱり覚えてるじゃん」
「じゃあ涼也君の好きな女のタイプについての続きからにしよう、前みたいに二択で質問するから」
あの日二時間も付き合わされたというのにまだ足りないのかよ。まあ、あの時は俺が何か答えるたびに玲緒奈と里緒奈から追求されたため多くは答えられていなかったが。
「涼也的に身長の高い女子と低い女子ならどっちが良い?」
「あっ、やっぱりやる流れなのか」
「当たり前でしょ、分かってるとは思うけど虚偽報告は許さないからね」
「うーん……低い女子かな」
俺はしばらく考えてからそう答えた。具体的にどこからが高くてどこからが低いのかは分からないが、俺の身長が百六十七センチと平均より低いため付き合うなら小柄な方が釣り合うだろう。
そういう意図があってそう答えた俺だったが二人の顔から表情が消え失せたため選んではいけない選択肢を射抜いてしまったらしい。バスの中の温度が下がったような感覚に陥っており生命の危機すら感じる。
「ふーん、涼也君は身長が低い女子の方がいいんだ」
「その理由について私とお姉ちゃんに詳しく教えて欲しい」
前回の恋バナの時も間違った選択肢を選ぶと玲緒奈と里緒奈は俺を徹底的に尋問してきたのだ。いや、あれは尋問というよりも洗脳に近かった気がする。
何故かはよく分からないが二人から尋問されているうちに選ばなかった方がだんだん俺の好みだと思えてくるのだ。
思考を捻じ曲げてくるのだから洗脳と言っても過言ではないだろう。玲緒奈と里緒奈からの早く答えろという圧が凄まじいのでひとまず答える事にする。
「ほら、俺って見ての通り身長が平均ないだろ? だからやっぱり釣り合うのは低い子かなと思ってさ」
「でもさ二人の身長差があまりない高い女子ならハグもしやすいし、服とかも共有できるからその方が良くない?」
「低いより高い方がスタイルも良く見える」
「確かにそうかもだけどそもそも身長が高い女子は高身長の男子と付き合わないか?」
世の中には同じくらいの身長差や逆身長差のカップルもいるらしいがそれは例外だろう。身長が平均を下回っている時点で高い女子と付き合える可能性は限りなく低いに違いない。
まあ、そもそもモブキャラBな俺の場合は年齢イコール彼女いない歴童貞のまま人生が終わる可能性が極めて高いが。
「そんな事はないと思うよ、私は例え相手が自分と変わらないくらいの身長でも好きになったら関係ないと思ってるし」
「私もお姉ちゃんも身長だけで人を選んだりはしない」
「そういう相手ばかりならいいんだけどな」
「ちなみにもし自分と変わらないくらい身長が高い女子から告白されたら付き合える?」
「それは全然大丈夫、てかむしろ付き合って欲しいまである」
俺のような人間と付き合ってくれる女神様の時点で断るはずがない。ぶっちゃけ相手が嫌でさえなければ俺より身長が高くても大丈夫だ。
「へー、そうなんだ」
「今の言葉はしっかり覚えておく」
よく分からないが先程の答えは二人的には問題なかったようで禍々しい雰囲気が体から消えた。とりあえずこれで一安心だ。
「じゃあこの調子でどんどん行くからよろしくね」
「えっ、まだ続けるのか?」
「勿論、清水寺に着くまで続ける」
おいおいマジか。道も結構混んでるっぽいからしばらく着きそうにないじゃん。
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