第3章

第71話 私達の目の色はおばあちゃん譲り

 いよいよ始まった修学旅行の初日の今日、俺達は新幹線の車内にいた。東京駅で新幹線に乗ってから既に二時間が経過しているためそろそろ到着だ。


「涼也君、里緒奈見て。窓の外がめっちゃ京都っぽいよ」


「本当だ、五重塔が見える」


「お姉ちゃん、テンション高過ぎ」


「クールな顔をしてるけど里緒奈も嬉しそうじゃん」


「だな、普段より口角が上がってるし」


 そう指摘すると里緒奈はほんの少し恥ずかしそうな表情になった。最初の頃は里緒奈の表情を読み取るのに苦戦していたが今では大体分かる。これも二人と密度濃い時間を過ごしてきた賜物だ。


「新幹線を降りた後は何をするんだっけ?」


「この後は集合写真」


「確か集合写真は京都駅ビルの大階段前で撮る予定のはず」


「あっ、あそこって確か空が見えるところだよね」


「今日は晴れてるから綺麗な写真が撮れると思う」


 三人でそんな事を話しているうちに新幹線が京都駅に到着した。新幹線から降りた俺達は引率の後に続いて京都駅構内を移動し始める。


「それにしても外国人が多いな」


「京都は外国人にも人気」


「私達のおばあちゃんも京都は大好きだって言ってたよ、下手したら私達より詳しいかも」


「そう言えば二人のおばあちゃんはイギリス人だっけ」


「私達の目の色はおばあちゃん譲り」


 と言う事は玲緒奈や里緒奈と同じく青い瞳をしているのだろう。ハーフやクォーターでも青い瞳になる可能性はかなり低いと聞いた事があるので二人は低確率を引き当てたに違いない。

 俺も玲緒奈や里緒奈みたいに異国の血が流れていたら女の子からモテたかもしれないと一瞬思ったが口に出すと恐ろしい事が起きそうな予感がしたためそれは辞めた。


「もし外国人から英語で話しかけられたら助けてくれよ、俺レベルの英語力だとまともな会話になるか分からないしさ」


「そこは私がいれば大丈夫」


「うん、里緒奈はネイティブレベルだから」


「それなら安心だ」


 そんな会話をしているうちに大階段前に到着した俺達は教師の指示に従って整列する。綺麗な青空が広がっているため映える写真が撮れそうだ。

 それから写真撮影が始まったわけだが二人が両脇から思いっきり密着してきたため男子達からまるで親の仇を見るような視線を向けられてしまう。

 日頃から玲緒奈と里緒奈と一緒に行動をしている関係でそういう視線は浴び慣れてはいるためダメージはゼロだが。


「せっかく私と里緒奈が密着したっていうのにリアクションが薄過ぎない?」


「前の涼也なら絶対に慌ててた」


「日頃から二人に散々振り回されたせいで色々と耐性がついてきたのかもな」


 隣を歩きながら不満そうな表情を浮かべる二人に対して俺はそう言い放った。俺をこんなふうにしたのはお前らだからな。


「なるほど、もっと強い刺激を与えないと涼也君は満足しない体になっちゃったんだ」


「マンネリ化しないように涼也への責めのバリエーションを増やす必要がある」


「絶対わざとだと思うけど周りから色々と誤解されそうな言い方をするのは辞めろ」


 俺がとんでもない変態と勘違いされたらどうするんだよ。まあ、俺はぼっちだから周りからどう思われようが別にどうでも良いが。

 それから引率の先生の誘導で京都駅の八条口まで移動した俺達は貸切バスに乗り込む。バスは一番後ろ以外は二人掛けの座席しかないため三人一緒に座るのは難しそうだ。

 そう思ったため空いていた適当な座席に座ろうとする俺だったが玲緒奈と里緒奈からがっちり腕を掴まれて止められる。


「涼也君は私達と一緒だから一番後ろだよ」


「他の座席に座るのは許さない」


「でも一番後ろの席は他に座りたいやつがたくさんいるんじゃないか?」


 修学旅行のバスの一番後ろは陽キャの定位置なイメージがあるし競争率もめちゃくちゃ激しそうなため恐らく無理だと思うのだが。


「ああ、それならもう既に皆んなと交渉してあるから大丈夫だよ」


「私とお姉ちゃん、涼也の三人だけで座る話で納得してくれた」


 どうやら俺の知らない間にその辺りもしっかり話をつけていたらしい。どんな交渉をしたのかは知らないが流石は玲緒奈と里緒奈だ。


「やっぱり涼也君を野放しには出来ないじゃん」


「私とお姉ちゃんの近くにいないのは危険」


「いやいや、俺を何だと思ってるんだよ」


 俺をまるで目が離せない小さな子供のように扱うのは辞めろ。てか、むしろ二人の隣に座る方が色々危険そうな気しかしないんだけど。


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