第70話 でも涼也君にも穴はあるよね?
「マジで酷い目にあった」
「まさか涼也君がナンパされるなんてね」
「私もお姉ちゃんも完全に油断してた」
ようやく元の姿に戻れた俺はフードコートのカフェで飲み物を飲んでいるわけだがとにかく体の疲労感が半端ない。
普通に修学旅行の買い物をしていただけならこんなに疲れる事は無かったに違いない。男からナンパされるという貴重な体験をした事も疲労の要因だ。
「でも涼也君の貞操を守れたから良かったよ」
「危うく涼也が私達より先に処女を卒業するところだった」
「いやいや、俺は男だから……」
男が卒業するのは童貞であって処女ではない。そんな事を思っていると玲緒奈と里緒奈はとんでもない事を言い始める。
「でも涼也君にも穴はあるよね?」
「それに世の中には男の娘ってジャンルもあるって聞く」
「さっきの奴らにはそんなマニアックな趣味があったとは思えないけどな」
てか、里緒奈が男の娘というワードを知っていたのがめちゃくちゃ意外だ。俺がやっていたソシャゲもやっていたし意外とオタクっぽい趣味を持っているのかもしれない。
「分かってるとは思うけど涼也君の初めては私と里緒奈のものだから」
「他の誰にも渡さない」
「私達が奪うまで大切に取っておいてよ」
「心配しなくてもそんなもの欲しいやつなんて誰もいないから」
あれっ、私達が奪うって聞こえたような。いや、それは流石に気のせいか。同級生の女子から穴を狙われるなんてあまりにも非現実的過ぎるし。そんな事を考えていると里緒奈が口を開く。
「そう言えば涼也にさっきの感想を聞くのを忘れてた」
「さっきの感想?」
何の事なのか分からない俺に対して玲緒奈はニヤニヤした表情を浮かべながら話し始める。
「女の子のファーストキスを奪っておいて何も感想を言わないのはどうかと思うな」
「えっ、さっきのファーストキスだったのか!?」
「十七年間大切にしてきたけど涼也に奪われた」
俺が奪ったというより里緒奈から一方的に押し付けてきたという方が正しい気はするがそこは突っ込まない。そう言えば夏休み前勉強会という名目で押しかけるように泊まりにきた時にそういう経験は一切ないと言ってたな。
「あれは流石にノーカンにしないか? 一応女の子になってたんだし」
「何言ってるの、涼也君は男の子なんだから女の子になれないでしょ」
「私のファーストキスを奪ったのは間違いなく涼也」
「おい、さっきまで散々涼香とか呼んで女の子扱いしてたのはどこへ行ったんだよ」
「あれはあれでこれはこれだから」
突然手のひら返しされて納得がいかなかった俺はそう文句を言ったが、残念ながら二人は取り合ってくれなかった。やはり玲緒奈と里緒奈は本当に理不尽だ。
「じゃあそろそろキスの感想を言って欲しい」
「涼也君がちゃんと感想を言うまで帰らせないから」
「……突然の事すぎてあんまりよく覚えてないけど、とりあえず里緒奈の唇が柔らかかったとだけ」
観念して俺がそう答えると里緒奈はいつも通りクールな表情を浮かべつつもどこか嬉しそうに見えた。てか、今更気付いたんだけど玲緒奈と里緒奈のファーストキスの相手ってどっちも俺だよな?
玲緒奈のファーストキスも事故とは言え奪ったわけだし。万が一二人のファンに知られたら袋叩きにされて殺される気しかしない。
「色々あったけど無事に買い物も終わったし帰ろうか」
「そうだな、その色々のせいで疲労困憊だし」
「修学旅行本番が待ち遠しい」
途中から完全に俺の女装がメインになっていた気もするがひとまず今日の目的である修学旅行の買い物は達成出来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます