第68話 これで涼也をどこに出しても恥ずかしくなくなった

 それから二人の気が済むまでウィッグを試着させられた後、今度は服屋へと連れて行かれる。ここでも着せ替え人形にされる事が分かり切っていたためもう既に憂鬱だ。


「てか、俺を女装させるためだけに服まで買うのは流石にお金が勿体なくないか?」


「ああ、今日買った服は私と里緒奈用にするから」


「私達と涼也は身長がほとんど変わらないからそれが出来る」


 なるほど、確かに俺の方が二センチ高いくらいで二人との身長差はほとんどないため玲緒奈と里緒奈でも着れるだろう。

 俺の身長が低い訳ではなく二人が女子として高いだけだから。心の中でそんな言い訳をしている間に玲緒奈と里緒奈は俺に着せる服をいくつか見繕って持ってきた。


「……なあ、服を着させられるのはもう諦めたから良いんだけど流石にスカートは許してくれないか?」


「やっぱりスカートは外せないから駄目かな」


「男の俺が履くのは問題でしかないだろ」


「涼也はこれから女の子になるんだから大丈夫、それにスコットランドの民族衣装では男性もスカートを履いてるから問題ない」


 いやいや、ドヤ顔でそんな事を言われてもここはイギリスではなく日本だからな。その後も何とかして説得を試みたが二人は許してくれず結局履くことになった。

 店員も俺達の姿を遠目から見てヒソヒソしているし最悪だ。しばらく着せ替え人形にされた後ようやく二人が満足してくれたため服を購入して店を出る。


「これで服も揃ったね」


「後はメイクをすれば完璧」


「なあ、本当にやるのか……?」


「勿論、そのためにウィッグと服まで買った」


 里緒奈は無慈悲な言葉を口にした。やはり女装する事はどう頑張っても避けられないようだ。


「とりあえずトイレで着替えてきて」


「……ああ」


「あっ、分かってると思うけど逃げようとしたら許さないからね」


「もしそんな事をしたら涼也への罰がさらに増える」


 急用が入った事にしてそのまま逃げようかなどと思っていたが二人は全てお見通しだったらしい。ウィッグと服を受け取った俺はトイレへと向かい始める。

 男子トイレで女装すると面倒なトラブルに巻き込まれてしまう可能性がある気がしたので多目的トイレで着替える事にした。


「大切な何かを失った気分だ」


 短時間で着替え終わった俺は多目的トイレを出て二人の元へと戻り始める。スカートのせいで下半身がスースーして違和感が凄まじいし周りから見られているような気がして落ち着かない。


「ちゃんと逃げずに着替えてきたぞ」


「めっちゃ似合ってるじゃん、やっぱり私達の目に狂いは無かったね」


「涼也可愛い」


「おい、写真を撮るな!?」


 玲緒奈と里緒奈が写真を撮ろうとしたため慌てて両手で顔を隠す。またいつものようにSNSにアップされては堪らない。鍵垢とは言え澪もフォロワーらしいし絶対ネタにされる。


「最後に仕上げでメイクするからここに座って大人しくしててね」


「涼也が動いたら時間がかかる」


 そんな事を口にしながら二人はカバンの中から化粧道具を取り出す。そして手際よく俺の顔をメイクし始める。当然今までメイクされた経験なんて無いため変な気分だ。


「よし、完成したよ」


「これで涼也をどこに出しても恥ずかしくなくなった」


「いやいや、この格好をさせられてる時点でめちゃくちゃ恥ずかしいからな」


「とりあえず涼也君も見てみてよ」


 玲緒奈はそう言って鏡を差し出してくる。鏡の中に映った自分は普通に女の子にしか見えなかった。多分声を出さずにずっと黙っていれば女の子だと皆んな思うはずだ。そのくらいにはクオリティが高い。


「これで満足だろ、じゃあ俺はもう一回トイレで着替えてくるから」


「何言ってるの? 涼也君は今日一日このままだよ」


「こんな一瞬だと女の子の気分を味わったとはとても言えない」


「えっ!?」


 てっきりこれで許して貰えるとばかり思っていたためショックのあまり声をあげてしまった。今日一日はこのままって本気で言ってるのか?


「今の姿で涼也って呼ぶと変だから女の子の格好をしている間は涼香りょうかって呼ぶ」


「このまま修学旅行の買い物を再開するから涼也君、じゃなくて涼香ちゃんもそのつもりでよろしくね」


 うん、どこからどう見ても本気にしか見えない。罰が増える事覚悟でさっき逃げていた方が良かった気がしてきた。あっ、でもそんな事をしてたらもっと凄まじい辱めを受けてた可能性もあるか。

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