第67話 なるほど、これがいわゆる口ではそう言ってるけど体は正直ってやつだね

 修学旅行直前の日曜日である今日、俺は朝から玲緒奈と里緒奈によってショッピングモールでの買い物に付き合わされていた。


「なあ、修学旅行用でそんな買わないといけないようなものなんてあるか?」


「うん、女の子には色々必要なものが多いんだよ」


「涼也も一回女の子になってみたら分かる」


「性別なんてどう頑張っても変えられないだろ」


 現代の技術では肉体的に完全な女性になる事は出来ない。それにもし出来たとしても女の子になりたいとは思わない。ぼっちって女の子の方が辛いらしいし。

 そんな事を思っていると何か思いついたらしい玲緒奈は里緒奈と二人でコソコソと何かを話し始める。もうこの時点で嫌な予感しかしない。


「やっぱり涼也君も一回女の子の気分を味わってみようよ」


「さっきから言ってるとけどそもそも女の子になるのは無理だぞ」


「だから気分を味わってみようってお姉ちゃんは言った」


「……まさか女装しろとか言わないよな?」


「そのまさかかな」


 玲緒奈はにっこりとした笑顔を浮かべてそう答えた。おいおい、女装させられるとか勘弁してくれ。てか、俺の女装なんか見て誰が得するんだよ。


「涼也はこの間女の子みたいな声を出してたしきっと女の子になりたかったはず」


「いやいや、あれは出したって言うより出さされたって感じなんだけど……」


「なるほど、これがいわゆる口ではそう言ってるけど体は正直ってやつだね。って事で涼也君も同意してくれたしとりあえずウィッグから見に行こうよ、コスプレ専門店に置いてあったはずだし」


 うん、これは何を言っても無理だ。いつものように玲緒奈と里緒奈から好き放題されるに違いない。そしてまさかエロ漫画の中でしか聞かないようなセリフを聞く事になるとは思わなかった。

 しかも玲緒奈の口から出たというのがまた凄まじい。俺にはそんな趣味は無いがそういう性癖がある人間なら大喜びしそうだ。


「うーん、どれが涼也君にピッタリかな?」


「無難そうなのはやっぱり黒髪」


 玲緒奈と里緒奈は全く乗り気でない俺をコスプレ専門店に連行すると二人で盛り上がりながらウィッグを物色し始める。

 修学旅行の準備で来たはずなのに何故こんな事になってしまったんだろうか。あっ、俺が余計な事を言ったからか。そんな事を思っていると玲緒奈と里緒奈がウィッグを手にこちらへとやってくる。


「ちょっとこれを被ってみてよ」


「涼也にきっと似合う」


「……ちなみに拒否権とかは?」


「逆に聞くけどあると思う?」


 ですよね、知ってた。俺は玲緒奈から手渡された黒髪ウィッグを渋々被る。被り終わると二人は再び盛り上がり始めた。


「うん、良いね。想像してたよりもずっと良いよ」


「やっぱり私の思った通り」


「どんな感じかめちゃくちゃ気になるんだけど……?」


「はい、鏡」


 玲緒奈から差し出された鏡を見ると黒髪ミディアムヘアのウィッグを被った俺の姿があったがどことなく澪や母さんに似ている。てか、思ってたよりも似合ってて驚きだ。勿論そっちの趣味に目覚める気は毛頭無いが。


「じゃあ次涼也君に被って貰うのはこれね」


「その次はこれ」


「おいおい、どれだけ被らさせる気だよ?」


 いつの間にか新しいウィッグを準備していた二人の姿を見て思わずそう声をあげた。この後女装用の服も見に行くみたいな事を言っていたためこの辺りで勘弁して欲しいのだが。


「それは勿論私と里緒奈が満足するまでかな」


「これはこの間あった修学旅行のホームルームで私とお姉ちゃんを放置してゲームしてた罰の意味もあるから」


「って訳でどんどん試着して貰うから覚悟しておいてね」


 二人から何も言われなかったためてっきりもう罰の事は忘れているのではと思っていたがどうやらしっかり覚えていたらしい

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