第65話 心配されなくてもこの歳で社会的に死ぬ気はないから

 しばらくして修学旅行に関するホームルームも終わり各教室で帰りのホームルームをやった後俺達は家へと帰り始める。


「修学旅行楽しみだね」


「少なくても今回は中学生の時よりは楽しめそうだ」


「涼也が中学生の時の修学旅行はどんな感じだった?」


「あっ、それ私も気になる」


 俺の返しに対して玲緒奈と里緒奈はそう尋ねてきた。正直あまり思い出したくはないのだが聞かれてしまった以上は答えなければならない。


「うちの中学校は二泊三日で九州に行ったんだけど基本的に三日間ずっと一人で点呼の時くらいしか他人と話さなかったな、自由行動もハブられたし」


 だから中学生の修学旅行は本当にきつかった。特に長崎にあるホームテンボスというテーマパークでの自由行動は班員から置いていかれ本当に悲惨だった事は今でも忘れられない。

 一人でアトラクションに乗る気にもなれなかったため結局集合時間になるまで休憩所で作家になろうの小説をひたすら読むだけの過ごし方をしたのだ。どう考えても修学旅行の過ごし方ではない。


「……なんかごめん」


「……今回の修学旅行は涼也もきっと楽しい」


 俺の言葉や話している時の表情を見て全てを察した二人からマジトーンで謝られ何とも言えない気分になった事は言うまでもないだろう。そんな事を思っていると地面に滴が落ちてくる。


「これもしかして雨降る感じか?」


「でも今日は雨の予報なんてなかった」


「だよね、だから私も里緒奈も傘とか持ってないんだけど」


「同じく俺も持ってない」


 まあ、もし仮に誰か一人持っていたとしても三人で使うには狭すぎて無理だろうが。雨が降り始める前に帰りたかったため急ぎ足で家へと急ぐが残念ながら間に合わない。


「おいおい、勘弁してくれ」


「ここまで強いのは予想外」


「どこかでで雨宿りしないとまずいよ」


 突然のゲリラ豪雨に襲われた俺達はひとまずカバンやリュックを頭上にかかげて屋根のある場所に入った。


「全く止みそうな気配がないね」


「ああ、しばらくはこのまま降り続けるっぽいな」


「このままだと風邪を引いちゃう」


 言うまでもなくカバンやリュックでは雨を防ぎきれなかったため三人ともどこかしらが濡れている。スマホで天気を確認しても一時間以上は激しく降り続ける予報になっているため最悪だ。


「あっ、そう言えばここの近くに確か銭湯があったよね。そこで雨宿りしてから帰らない?」


「そうだな、雨に濡れて気持ち悪いし」


「私もお姉ちゃんに賛成」


 全員賛成したため俺達は銭湯へ向かう事にした。運が良い事に今いる場所から三分くらいの距離のため移動の負担も比較的少ない。


「あっ、一つ涼也君に残念なお知らせがあるんだよね」


「残念なお知らせって何だ?」


 突然の玲緒奈の言葉に俺はそう聞き返した。まさか今から行く銭湯に男湯がないとかじゃないだろうな。そんな事を考えていると玲緒奈はニヤニヤした表情で口を開く。


「これから行く銭湯は混浴じゃないけどがっかりしないでね」


「いやいや、混浴なんてそもそも初めから期待してないから」


「涼也はむっつりスケベだから楽しみにしてるのかと思ってた」


 普通の銭湯に混浴なんてない事くらい俺でも知ってるからな。それから俺達は複数の屋根下を経由しながら銭湯を目指す。

 突然のゲリラ豪雨で被害を受けたのは俺達だけではなかったようで屋根下で雨宿りをしている人達の姿がかなりあった。そしてようやく目的地に到着した俺達は後からお金が戻ってくるタイプの靴箱に靴を入れて券売機でチケットとタオル一式を購入する。


「じゃあ私とお姉ちゃんはこっちだから」


「ムラムラしても覗こうとしちゃダメだよ」


「心配されなくてもこの歳で社会的に死ぬ気はないから」


 うん、二人が俺に対してどういうイメージを持っているのかよく分かった。

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