第64話 うん、涼也君に悪い虫がつかないようにお願いするだけだから

 理不尽な理由でSSRキャラを没収されて萎えていると玲緒奈と里緒奈は俺を左右から挟み込むように腰掛けて座る。


「……なあ、他にも空いてる席はいっぱいあると思うんだけど」


「どう考えてもここ意外ありえない」


「うん、涼也君の隣は私達の指定席だから。それにどうせ同じ班になるんだから一緒に座った方が効率いいしね」


 俺に体をわざとらしく密着させてくる玲緒奈と里緒奈から逃れたかったため何とかして二人を引き離そうとしたが無理そうだ。

 左右を塞がれているため逃げることも出来ない。何も考えず三人掛けの席の真ん中を選んでしまった自分を殴りたい。

 俺のクラスメイト達はまたかと言いたげな表情を浮かべていつも通りだったがそれ以外の同級生達は驚いたような表情を浮かべていた。

 まあ、俺のようなパッとしない奴が美少女をはべらせていたら普通はそういう反応になるだろう。特に何も知らないであろう玲緒奈や里緒奈の友達は俺に対して厳しい視線を向けていたため非常に居心地が悪い。

 そんな事をしているうちにホームルームの時間が始まり修学旅行の行程表が配られ説明が始まる。今回の二泊三日の修学旅行では事前に聞いていた通り初日と三日目が全体行動で二日目が一日自由行動のようだ。


「説明はこれくらいにして二日目の班を三人から五人くらいで組んで貰おうか、決まった班から先生にメンバーを教えてくれ」


 教室の前でプロジェクターを使いながら修学旅行の説明していた教師はそう言葉を口にした。全世界のぼっち泣かせとも言える言葉だったが今回は玲緒奈と里緒奈がいてくれるおかげで悲劇は回避出来そうだ。


「私と里緒奈、涼也君の三人で報告してくるよ」


「一応確認だけど本当にそれで良いのか?」


「……まさか涼也は私達と一緒の班が嫌なの?」


「……嫌な理由を具体的に話して欲しいな」


 速攻で立ち上がって先生へ報告しに行こうとする玲緒奈の姿を見てそう確認したところ二人は冷たい眼差しでそう尋ねてきた。ぱっと見二人とも普段とあまり変わらない表情に見えるが体から出ているオーラがいつもと全く違う。

 まるで目の前に猛獣がいるかのような錯覚を覚えるほどのプレッシャーを感じていた。重圧に耐えきれなくなった俺はひとまず弁明をする。


「い、いや玲緒奈や里緒奈と一緒の班になりたいって人が他にもいそうと思ったからさ」


「そこは心配しなくても大丈夫、もう既に涼也君と里緒奈の三人で班を組むって話は皆んなにしてるから」


「涼也が私とお姉ちゃんを放置してお楽しみ中だった時に全部説明済み」


 あっ、なるほど。ホームルームが始まる前からずっと玲緒奈や里緒奈の友達が俺に対して異様なまでに憎悪の視線を向けていたり、班決めが始まっても誰も二人を誘ってこないのはそういう事か。

 友達の自分達を差し置いて訳のわからないが玲緒奈や里緒奈の隣にいるのが許せないのだろう。ある意味ぼっちで修学旅行に行くよりも辛いかもしれない。


「じゃあ涼也君も納得してくれた事だし今度こそ先生に報告してくるね」


「お姉ちゃんよろしく」


 玲緒奈と里緒奈がそこまで友達に根回しをしている以上断る理由が無かったため俺は大人しく見送った。それから全ての班が決まったところで今度は自由行動の行き先を話し始める。


「やっぱり京都に行くんだからお寺とか神社巡りをしたいな」


「全体行動の時に清水寺とか伏見稲荷には行くけどまだ行くのか?」


「うん、せっかくだから色々なご利益にあずかりたいし」


 木更津へ行った時もそうだったが玲緒奈と里緒奈は意外にスピリチュアルなところがあるためご利益やパワースポットなどに弱いのだろう。


「それなら安井金比羅宮やすいこんぴらぐうに行きたい」


「あっ、そこは私も行きたいと思ってたんだよね」


「ちなみに安井金比羅宮ってどんなところなんだ?」


「京都最強の縁切り神社って言われてる」


 里緒奈の口からはそんな言葉が飛び出した。てっきり縁結びなどの効果があると思っていたためその真逆である縁切りという言葉が出てくるのは完全に予想外だ。


「えっ、もしかして二人とも縁切りしたい相手でもいるのか?」


「ううん、私達じゃなくて涼也君の縁切りをお願いしようと思って」


「おいおい、ただでさえぼっちな俺が縁なんか切ったらもっと悲惨な事になる気しかしないんだけど」


「涼也の悪縁を断ち切るだけだから心配はいらない」


「うん、涼也君に悪い虫がつかないようにお願いするだけだから」


 二人とも既に行く気満々の様子だったためとても嫌とは言えそうになかった。まあ、悪縁を断ち切るだけなら大丈夫か。

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