第2章

第63話 とりあえず涼也が反省するまでこれは一旦私が預かっておく

 夏休みが終わってから一週間が経過し、やっと夏休みボケが抜けてはきたが学校が憂鬱な事には変わりない。ようやく五時間目の授業が終わったため座ったまま背伸びをしていると玲緒奈が話しかけてくる。


「涼也君は相変わらず気怠そうな顔をしてるね」


「それが俺って人間だからな」


「うん、知ってる」


「じゃあ何でわざわざ指摘してきたんだよ?」


「うーん、暇つぶしかな?」


 玲緒奈に絡まれる俺だがクラスメイト達は特に気にしている様子もない。俺が玲緒奈に絡まれるのが日常茶飯事過ぎて皆んな慣れたのだ。

 夏休み前であれば俺の陰口をつぶやいているクラスメイトも一部いたが玲緒奈の圧がよほど効いたのか今では全く聞こえてこない。

 ぶっちゃけ内心で俺に対して快く思っていない奴がいてもおかしくはないが俺に実害が無ければダメージはゼロだ。


「それよりそろそろ移動しない? 里緒奈も待ってるだろうし」


「そうだな」


 次の六時間目は修学旅行に関するホームルームがあるため移動教室となっている。ホームルームは北海道、沖縄、京都組でそれぞれ別れて行うため教室から出たクラスメイト達の歩いていく方向はバラバラだ。

 北海道組と沖縄組は人数が多いため多目的教室などの広い場所を使うようだが京都組は人数が少ないため普通の教室とそんなに大きさが変わらない社会科教室でホームルームを行うらしい。

 教室を出て少し歩き社会科教室前に到着した俺達だったが中に足を一歩踏み入れた瞬間玲緒奈が複数人から話しかけられ始める。


「あれっ、玲緒奈って北海道選んだんじゃなかったの?」


「実は先生に無理を言って変えてもらったんだよね」


「へー、そんな事出来るんだ」


「それなら私達に教えてくれても良かったのに」


 気付けば玲緒奈の周りには人集りが出来ていた。流石は学校中に友達がいる陽キャでコミュ力抜群な玲緒奈だ。同じような人集りがもう一つあったためチラッとそちらを見るとその中心には里緒奈の姿があった。

 玲緒奈も里緒奈も本当に大人気だな。言うまでもなく俺には友達がいないため話しかけてくるような存在は皆無だった。

 適当な席についた俺はホームルームが始まるまで時間があったためソシャゲを開く。最初は机に伏せて寝ようかなと思っていたのだがちょっと前酷い目にあったばかりなのでそれは辞めた。


「そう言えば今日からお月見ガチャか」


 お月見ガチャの目玉であるSSRは人気女性キャラのバニーガールコスチューム十種類となっているためこの機会にぜひ入手したい。

 俺は早速貯まっていた石を使って十連ガチャを回す。初回のため今回回した分に関しては正直あまり期待していなかった俺だが最後の十連目でSSRの確定演出が表示される。


「おっ、こんなに早く引けるのはめちゃくちゃラッキーじゃん」


 一体どのキャラが出るのかワクワクしながら画面を見つめていた俺だったが突然手が伸びてきてスマホを取られてしまう。

 顔を上げるとそこには暗い笑みを浮かべた玲緒奈と俺のスマホを手に持ったままいつも通り無表情な里緒奈の姿があった。いや、よくよく見ると里緒奈も体から黒いオーラが出ている。


「ふーん、涼也君は私達を放置してこんな事やってたんだ」


「これは何か罰を与えないと許せそうにない」


「いやいや、二人の交友の邪魔をするのも悪いかなと思って大人しくしてただけだからな」


 SSRの確定演出が終わる前にスマホを没収されたためガチャの結果が気になってしまう俺だが玲緒奈と里緒奈の機嫌をこれ以上損ねるのも不味いと思ったため慌てて弁明をした。


「涼也君への罰の内容はゆっくり考えさせて貰うから楽しみにしておいて」


「とりあえず涼也が反省するまでこれは一旦私が預かっておく」


「おい、マジか!?」


 里緒奈が見せてきた俺のスマホ画面にはなんとトレード成立という文字が表示されていた。俺が運良く引いたSSRキャラは里緒奈に没収されてしまったらしい。

 最近のソシャゲにしてはかなり珍しいトレード機能をまさかこんな形で悪用されるとは思ってすらいなかった。てか、里緒奈もこのソシャゲやってたのかよ。

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