第60話 一緒にお風呂に入ったり寝たりするくらいにはラブラブなんだよね

「ねえ、八神。そこの超絶美人は誰?」


「この子は……」


「私は涼也君の彼女だけど?」


 俺が説明をする前に玲緒奈は腕を絡ませながらそう答えてしまった。いやいや、さらっと凄まじい嘘をつくなよ。


「えっ、八神の彼女って本当!?」


「いやっ、玲緒奈は別に……」


「一緒にお風呂に入ったり寝たりするくらいにはラブラブなんだよね」


 何とかして誤解を解こうとするが玲緒奈は何のためらいもなく火に油を注ぐような発言をする。しかも今の発言は一応嘘ではない事もあって否定もしづらくたちが悪い。


「中学生になってからずっとぼっちだった八神にこんな美人な彼女が出来たなんてちょっと信じられないんだけど」


「だからそれは……」


「まあ、確かに涼也君は高校に入ってからもずっとぼっちだし卑屈でめちゃくちゃ捻くれてるしその気持ちも分からなくはないかな」


 さっきまで一応味方っぽい立ち位置にいたはずなのに急に手のひらを大回転させて盛大にフレンドリーファイアをしてくるのは辞めろ。事実陳列罪で訴えてやりたい気分になっている俺を無視して玲緒奈はそのまま言葉を続ける。


「でも私は皆んなが知らない涼也君の魅力に気付いたから仕方なく特別に彼女になってあげたってわけ」


「おい、何で急に上から目線になるんだよ」


「だって相手は涼也君だし」


 玲緒奈と二人でそんなやり取りをしていると松山さんはニコニコしながら口を開く。


「へー、外見とかは全然釣り合ってないと思ったけど案外お似合いじゃん」


「それはないだろ、一体どこを見てそう判断したんだよ」


「私は一応幼馴染だから昔の八神を知ってるけどそんなふうに他人に対して気を許してる姿なんて今まで見た事なかったからさ、それに彼女さんも八神と話してて本当に楽しそうだし」


 その言葉は完全に予想外であり俺も玲緒奈も固まってしまった。どう考えても俺と玲緒奈がお似合いなわけがないと思うのだが松山さんが嘘をついているようには見えない。


「せっかくぼっちから彼女持ちにランクアップしたんだから八神はせいぜい振られないように頑張りなよ、じゃあ私はもう行くから」


 松山さんは一方的に自分の言いたい事だけを言うと相変わらず固まっている俺達を残して去って行った。


「……あっ、松山さんに口止めするのをすっかり忘れてた!?」


 お喋りな松山さんの事だから俺に彼女が出来たとまるでスピーカーのごとく周りに言いふらしまくるに決まっている。

 ぼっちな俺だが別に影が薄かったわけではないので八神という名前を出すと中学校の同級生は俺の事だと気付いてもおかしくはない。今から追いかけても完全に手遅れなため諦めるしかないがマジで面倒な事になってしまった。


「涼也君の幼馴染だからちょっと警戒してたけど普通に良い人だったね」


「まあ、確かに松山さんが良い人な事は俺も認めるけどさ」


 玲緒奈が何を警戒していたか全く分からないが松山さんは昔から普通に性格も良く面倒見も良いタイプだ。だから俺も好きになったわけだし。


「ちなみに涼也君の事は間違いなく男として見てなさそうな様子だったから告白してたとしても多分振られてたと思うな」


「……おい、ニコニコしながらサラッと古傷をえぐってくるなよ」


「いつまでも初恋に引っ張られてても可哀想かなと思ったからつい涼也君に現実を認識させちゃった」


 玲緒奈は舌をぺろりと出しながらそう口にした。その姿がかなり可愛かったため文句を言う気が失せてしまったのはここだけの秘密だ。

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