第58話 普段はそんな事を言わない涼也君だから破壊力抜群だったの……

 それから俺は玲緒奈と一緒に家事をやり始める。玲緒奈がかなり効率よくテキパキと手伝ってくれたおかげで今日のノルマがあっという間に半分終わってしまった。

 とにかく玲緒奈の手際が良かったため想像よりもはるかに短時間でここまで済んでしまったのだ。今はダイニングテーブルで飲み物を飲みながら休憩をしている。


「……意外と家事が得意なんだな」


「ちょっと、意外ってどういう意味?」


「ほらっ、里緒奈が玲緒奈の部屋はよく散らかってるって前言ってたからさ」


 その事もあっててっきり玲緒奈は家事があまり得意ではないと勝手に思い込んでいた俺だったがそれは違ったらしい。


「こう見えても私は家事が結構得意だから、むしろ里緒奈の方が苦手なくらいだし」


「えっ、そうなのか?」


「うん、里緒奈はちょっとおっちょこちょいなところがあるしね」


「あー、言われてみれば確かにそうだ」


 里緒奈はリュックサックの隙間から筆箱を落としたり家庭科の時間自分の指に針を刺して保健室に来てたりもしてたし少しドジっ子なところがある。


「ちなみに涼也君が食べてる私達のお弁当も八割くらいは私が作ってるんだよ」


「へー、玲緒奈って思ったよりも凄いんだな」


「だから思ったよりもって言葉は一言余計だって、涼也君はもっと私の事を敬っても良いと思うんだけど?」


 玲緒奈は少し不満気な表情をしながらそう言葉を述べた。そんな姿を見た俺はすぐさま玲緒奈のフォローをする。


「心配しなくても俺は玲緒奈の事をめちゃくちゃ敬ってるぞ、敬い過ぎて爆発しそうなレベルだから」


「具体的にはどういうところが?」


「美人で性格も良くてコミュニケーション能力抜群で勉強も運動も出来るし、俺みたいな陰キャにも優しいんだからむしろ玲緒奈を敬うなって方が無理だろ」


「ふぇ!?」


 俺が思った言葉を何も考えずそのまま口に出すと玲緒奈は変な声を上げながら顔を赤く染めた。あれっ、想像してたリアクションと全然違うんだけど。てっきり得意気な表情をしながら肯定すると思っていたため完全に予想外だ。


「……急に不意打ちしてこないでよ」


「いやいや、俺が言った言葉なんて玲緒奈なら色々な奴らから聞き飽きるくらいには言われた事あるだろ」


「普段はそんな事を言わない涼也君だから破壊力抜群だったの……」


「まあ、確かに普段なら絶対に言わないけど」


 こんな事を口に出したら二人からキモいと思われそうだったため夏休み前にプリクラでうっかり口を滑らせた時くらいしかそういう発言はした事が無い。そもそもあの時は完全に独り言のつもりで聞こえるとは思っていなかったわけだし。


「……じゃあそろそろ再開しようか」


「そうだな、残りもさっさと終わらせよう」


 相変わらず赤い顔のままの玲緒奈と一緒に俺は残っていた洗い物や掃除などの家事を一気に進める。そして今日のノルマを全て終わらせたタイミングで買い物袋を手に持った澪が家に帰ってきた。


「おかえり」


「お兄ちゃんただいま。あっ、玲緒奈さんも来てたんですね」


「うん、お邪魔してるよ」


 最初は玲緒奈と里緒奈が家にいて緊張していた澪だったがここ最近はいるのが当たり前になりつつあるため今では完全に慣れたようでこんな感じだ。


「今日は里緒奈さんは来てないんですか?」


「ああ、あの子なら涼也君のベッドで寝てるよ」


「久々の学校でしたもんね、きっと里緒奈さんも疲れちゃたんですよ」


「うん、里緒奈は昔から体力があまり無いから」


 俺のベッドで里緒奈が寝ているというワードを聞いても全く驚いていないため澪も感覚が麻痺してきているのかもしれない。そんな会話をしつつ買い物袋から中身を取り出す澪だったが突然声をあげる。


「あっ、卵が無い!? このままだと晩御飯のオムライスが作れないじゃん」


「冷蔵庫には残ってないのか?」


「うん、昨日の晩御飯の時に全部使っちゃったから」


「晩御飯のメニューを変えるってのはどうだ?」


「もう今日はオムライスの口になってるから変えたくない」


 であれば面倒だが買いに行かなければならない。卵がないオムライスはただのケチャップライスでしかないわけだし。


「それなら俺が買いに行ってくるぞ、澪も帰ってきてばかりで疲れてるだろうし」


「本当に良いの?」


「ああ、任せてくれ」


 一人でやる予定だった家事を玲緒奈が手伝ってくれたおかげでだいぶ楽が出来たしそのくらいお安い御用だ。ダイニングテーブルの上に置かれていた買い物袋を手に取って玄関に向かおうとしていると玲緒奈が口を開く。


「せっかくだから私も買い物に付き合うよ」


「卵を買いに行くだけだから家でゆっくりしてくれてて大丈夫だけど」


「いいからいいから」


 玲緒奈が着いてくると面倒事が起こりそうな気がしたため断ったのだが一緒に来る気満々だ。断れそうになかったため仕方なく同行を認めた。

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