第1章
第57話 えー、それはつまらなくない?
「久々の学校だったから疲れた」
「やっぱり夏休みボケしてるから体がだるい」
始業式とテストが終わってようやく放課後になったわけだが俺と里緒奈はダウン寸前だった。里緒奈はかなり疲れた顔をしているが多分俺も同じような感じに違いない。
「涼也君も里緒奈も死んだ魚みたいな目をしてるね」
「お姉ちゃんが元気過ぎるだけ」
「ああ、玲緒奈は何でそんなに元気なんだよ?」
「私は日頃から鍛えてるから」
そんな会話をしながら俺達は靴箱で上履きから履き替え学校を出る。今日の夜はベッドに寝転んでから速攻で眠ってしまうに違いない。
「ところでこの後はどうする? 行きたいところが色々あるんだけど」
「いやいや、まっすぐ家に帰る以外はあり得ないだろ」
疲れて今すぐ家に帰りたい俺に対して玲緒奈は寄り道する気満々だ。てか、夏休み散々遊んだのにまだ遊び足りないのかよ。
「私も涼也に賛成、流石に今日は疲れ過ぎて無理」
「ほら、里緒奈もこう言ってるし今日は帰ろう」
「えー、それはつまらなくない?」
「多数決っていう民主主義的なルールに基づいて決定したんだから今回は諦めろ」
普段は玲緒奈に同調する里緒奈だったが疲労には勝てなかったらしく俺の味方をしてくれた。不満気な表情を浮かべる玲緒奈だったが何かを思いついたらしく里緒奈に耳打ちを始める。
「分かった、それなら私も問題ない」
「って訳で里緒奈と相談して私も帰る方向性で納得したから」
「……本当かよ?」
「うん、だから早く帰ろう」
先程までまっすぐ帰る事に難色を示していた玲緒奈が突然引き下がったため正直怪しさしか感じないが多分追求してもはぐらかされるため聞いても無駄だ。
「じゃあ二人ともまた明日」
三人で雑談をしながらしばらく歩き家の前に到着したため俺がそう口にして中に入ろうとすると一緒に玲緒奈と里緒奈が何の躊躇いもなく家に入ってくる。
「お邪魔します」
「おい、ちょっと待て。何ナチュラルに家の中に入って来てるんだよ!?」
「涼也君がまっすぐ家に帰りたいって言ったから言う通りにしただけだけど?」
「いやいや、ここは玲緒奈と里緒奈の家じゃないだろ」
「でも私は自分の家に帰るとは一言も言ってなかったよ」
ニヤニヤした表情でそう話す玲緒奈の姿を見て俺はようやく全てを察した。先程玲緒奈が不自然に意見を曲げた目的はこれに違いない。
「って訳で今日は何をしようか?」
「あっ、やっぱり帰る気はないんだな」
「当然だよ、でも民主主義的なルールで家に帰ったんだから文句は無いよね?」
「……分かったよ」
何も言い返せなかった俺は負けを認めるしかなかった。とりあえず俺の部屋へと二人を案内するわけだが里緒奈はベッドに寝転ぶとすぐに寝始めてしまう。
一瞬で眠ってしまったため久々の学校がよほど疲れていたのだろう。里緒奈がナチュラルに俺のベッドへと入った事に関してはもはや突っ込む気にもならない。
「とりあえず俺は今日の家事ルーティンをこなして来るから玲緒奈は適当にゆっくりしててくれ」
「そっか、家事は澪ちゃんと手分けしてやってるって言ってたもんね」
「玲緒奈も知ってると思うけどうちの両親は共働きだからな」
料理関係は全て澪に任せ基本的にその他の家事は全部俺がやっている。入院中や期末テストの時はだいぶ澪に負担をかけてしまったため本当に頭が上がらない。
「それなら私も手伝ってあげるよ」
「えっ、良いのか?」
「うん、見ての通り里緒奈は完全に寝ちゃってるし私も暇だから」
「じゃあお言葉に甘えようかな」
家事も地味に時間がかかるため手伝ってくれるならめちゃくちゃ助かる。手伝ってくれる事に何か裏がありそうな気がしないでもないが両指にペアリングを付けさせられている時点でこれ以上失うものなんてほとんど無いし全てがかすり傷だ。
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