第56話 うん、涼也君に叶えられそうな範囲でお願いするから

 それから三人で歩き続けて学校へと到着した俺は靴箱で里緒奈と別れて玲緒奈と一緒に教室へと入る。クラスメイト達からは相変わらず俺の事を見ようとすらしない。

 どうやらいまだに夏休み前の事件が尾を引いているようだ。白銀さんの財布が無くなった事件で玲緒奈がクラスメイト達を威圧した影響は大きいという事だろう。

 まあ、指に二個も付けているペアリングに関して誰かに触れられたりツッコミを入れられたくないので話しかけられない方が正直好都合だが。

 ひとまず自分の机に荷物を置いた俺は教室を出てトイレに向かう。今日は後期の始業式を体育館でやった後すぐに課題テストがあるためトイレは朝のうちに済ませてしまおうという考えだ。


「2年生の夏休み明けは修学旅行と学園祭が連続してあるから本当にイベント盛り沢山だよな」


「ああ、来年の今頃は受験勉強で死にそうになってるからしっかり楽しんどかないと」


 トイレで用を足していると二人組の会話が聞こえてきた。全部中止にならないかななどと考えている俺のような陰キャボッチとは違い普通の人からすれば修学旅行も学園祭も楽しみなイベントのようだ。


「ついでに彼女出来ないかな」


「いやいや、お前には無理だろ」


「でも修学旅行とか学園祭がきっかけで付き合い始めるカップルも多いらしいぞ」


 そう言えば朝教室に入った時に一部のクラスメイト達もそんな感じの会話をしていたっけ。まあ、そもそも俺には彼女なんて一生出来ないから関係ない話だが。

 そんな事を考えながら用を足し終えた俺は手を洗って教室へと戻った。そして夏休みボケの眠気を解消するため机に伏せて眠り始める。始業式で体育館へと移動するまではまだ時間があるため今のうちに体力を回復させるつもりだ。

 ちなみに以前玲緒奈から耳に息を吹きかけられた事があるため耳栓で対策済みだ。しばらくまどろむ俺だったが突然脇をくすぐられて飛び起きる。


「うわっ!?」


 顔を上げるとそこにはニコニコした表情の玲緒奈が立っていた。


「急に何するんだよ」


「何って起こしてあげただけだけど?」


「いやいや、もっとマシなやり方もあるだろ」


「だってさっきから何回話しかけても起きなかったんだもん」


 そう口にした玲緒奈は全く悪びれていない様子だ。いきなり脇をくすぐるのはマジで辞めて欲しい。


「……それでどうしたんだ?」


「もう始業式始まる時間で皆んな廊下に並び始めてるのに寝てたから起こしに来たんだよ」


「うわっ、本当だ」


 壁にかかった時計を見て始業式開始の五分前になっていた事にようやく気付く。いつの間にかかなり長い時間が過ぎていたようだ。教室にいたクラスメイト達には間抜けな声を聞かれてしまったがサボらずに済んだため助かった。


「涼也君を起こさなかったら多分あのまま放置されてたから私って恩人で救世主だよね?」


「そうだな、救世主って言い方は流石に大袈裟だと思うけど」


 自分で考えていて悲しくなるがクラスメイトは基本的に誰も俺と関わろうとはしてくれないため間違いなく寝過ごしていただろう。


「じゃあ何か助けてあげたご褒美が欲しいな」


「……分かったよ、ただしあんまり無茶なのは勘弁してくれ」


「うん、涼也君に叶えられそうな範囲でお願いするから」


「お手柔らかに頼む」


「里緒奈と相談して決めるね」


 ぶっちゃけ耳に息を吹きかけてくる対策として付けた耳栓が周囲の音を遮断した事が原因で寝過ごしそうになったためある意味玲緒奈のせいな気もしたがそこは指摘しなかった。多分指摘したところで意味なんて無いと思うし。


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お待たせしました、更新再開です!

毎日投稿が目標ですが最初は少しリハビリも兼ねているので何日か間が開くかもですー


頂いた応援コメントは古すぎるものは今更返信するのもどうかなと思ったので返信していませんが全て目を通しています、ありがとうございます!


ちなみに書籍ですが今のスケジュール的に恐らく年内には1巻が発売になるとの事なので近々情報公開できるようになると思います、よろしくお願いします!

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