後編
プロローグ
第55話 完全に俺の保護者じゃん……
「……朝か」
目覚めた俺はベッドからゆっくりと起き上がりながらそうつぶやく。夏休みは昨日で終わりいよいよ今日から学校が再開となる。昨晩は早く寝たためアラームが鳴る前に目覚めてしまったようだ。
時計を見てまだかなり早い時間だと気付いた俺はもう少し寝ようかなとも考えたが、寝過ぎてしまうと玲緒奈と里緒奈がベッドに潜り込んでくる可能性があるため辞めた。
二人は制服にシワがつくという理由で下着姿になるような行動を平然と取るため油断できない。俺は二度寝したい気持ちを押し殺しつつベッドから立ち上がりダイニングへと向かう。
「お兄ちゃん、おはよう。こんな時間に起きるなんて珍しいね」
「おはよう、昨日は結構早く寝たからな」
「朝から暗い表情を浮かべてるけど一体どうしたの?」
「いやいや、絶対分かってて聞いてきてるだろ」
俺が暗い理由なんて夏休みが終わった以外に無いだろう。特に夏休み明けは修学旅行や学園祭など面倒でぼっちには辛いイベントが多いため尚更だ。ダイニングへ到着した俺達はトースターで食パンを焼いて食べ始める。
「お兄ちゃんの修学旅行の行き先は京都だっけ?」
「ああ、二泊三日もあってだるいからマジで行きたく無いんだけど」
「そんなネガティブな発言をするところがお兄ちゃんらしいよ」
「むしろ俺がノリノリだったら絶対キモイから」
玲緒奈や里緒奈のようにキラキラ輝いている人種と俺は違う。そんな事を考えているうちに朝食を終えた俺は部屋へと戻って朝の準備を始める。
「本当にこれ付けなきゃ駄目かな……?」
制服に着替え終わった俺は机の上に置いていたペアリングを見ながらそうつぶやく。学校にもつけてこいと言っていたが拒否したいというのが本音だ。だが二人がそれを許してくれるとは思えない。
「……一回とぼけてつけ忘れたふりでもしてみるか」
そこで玲緒奈と里緒奈の反応を一度見る事にしよう。それから少しして玲緒奈と里緒奈が部屋にやってくる。
「あれっ、もう起きてたんだ」
「涼也はまだ寝てると思ってた」
「昨日は早く寝たから思ったよりも早く目が覚めたんだよ」
俺は先程澪に説明した内容と同じような理由を口にした。その言葉を聞いて二人は納得したような表情を浮かべる。
「じゃあそろそろ出発しようか」
「あっ、ちょっと待って。涼也君何か忘れてない?」
「一番忘れたら駄目なもの」
やはり見逃してはくれないようだ。ペアリングなんて付けていたら絶対に目立ってしまうが玲緒奈と里緒奈には逆らえそうない。
「そう言えば学校にもつけていくって話だったっけ」
「もう忘れちゃ駄目だからね」
「次やったら罰がある」
俺はあたかも本当に忘れていたかのようなセリフを口にしつつ右手と左手の薬指にそれぞれ指輪をはめる。二人はそんな俺の様子を満足そうに見ていた。それから俺達は家を出て学校へと向かい始める。
「もう少しで修学旅行だよね」
「だな、今年頑張れば来年はないのが唯一の救いだ」
「せっかくの楽しいイベントなのに涼也は全然乗り気じゃなさそう」
「俺にとっては苦痛なイベントでしかないからな」
友達がたくさんいる玲緒奈や里緒奈とは違ってぼっちの俺に修学旅行はかなりの苦行だ。そんな事を思っていると玲緒奈が予想外の事を言い始める。
「心配しなくても涼也君は私と里緒奈と一緒の班だから」
「いやいや、修学旅行の行き先が違うんだからそれは無理だろ」
修学旅行の行き先は北海道と沖縄、京都の三択から選ぶ形式だが玲緒奈と里緒奈は北海道を選んでいた。そのため京都を選んだ俺と同じ班になる事は不可能だ。
「ああ、それなら私と里緒奈は行き先を京都へ変更して貰ってるから大丈夫だよ」
「だから涼也はぼっちにはならない」
「……えっ!?」
ちょっと何を言っているのかよく分からなかった。そもそも玲緒奈は北海道の話題で友達と盛り上がっていた場面を何度か見ていたため行き先を変える事がにわかには信じられない。
「涼也君をひとりぼっちにするのは可哀想だったから無理を言って変えて貰ったんだ」
「私とお姉ちゃんの目がないところに涼也は行かせられない」
「完全に俺の保護者じゃん……」
俺は小さな子供じゃないんだが。てか、二人が保護者なら俺の全てに口を挟んできそうな気しかしない。徹底的な監視下に置かれる姿が容易に想像出来てしまう。
「って訳だからよろしくね」
「三人で思い出を作ろう」
「分かったよ」
まあでも、玲緒奈と里緒奈が一緒の班になってくれるなら自由行動を一人で回るという悲しい事にはならずに済むし退屈もしなさそうなので結果オーライか。
「へー、同じ班って事をすんなり受け入れてくれるんだ」
「前の涼也なら理由をつけて断ってきてた」
「いつの間にか二人と一緒に行動するのが当たり前になったしな」
夏休み期間も四六時中一緒に過ごしたためもはや気にならなくなっている。そのうち今は抵抗があるような事でも何も思わなくなって受け入れているかもしれない。
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