エピローグ

第54話 じゃあ明日もよろしくね

 長かった夏休みもついに今日が最終日であり明日からはいよいよ学校が再開となる。日中は玲緒奈と里緒奈と一緒に課題テストの勉強をしており夜になった現在はリビングでテレビを見ている最中だ。

 日曜日の夕方ぐらいから憂鬱になる現象はブルーマンデー症候群などと呼ばれているらしいがそれと同じ気持ちになっている。

 いや、四週間近く休んだ上に明日は課題テストもあるため日曜日の比にならないくらい憂鬱だ。多分一週間ほどすれば夏休みボケも抜けるとは思うが始めの数日間は間違いなく辛いだろう。


「あーあ、明日台風が直撃とかして夏休み延期にならないかな。それか季節外れのインフルエンザが蔓延して学級閉鎖でもいい」


「お兄ちゃん本当憂鬱そうな顔してるよね、釣られて私まで暗い気分になりそうなんだけど」


 ちょうどお風呂上がりらしい澪は俺のつぶやきを聞いていたらしく呆れ顔で話しかけてきた。


「じゃあ逆に聞くけど澪は憂鬱じゃ無いのか?」


「勿論そういう気持ちもあるけど学校に行ったら友達とも会えるから」


「……うん、ぼっちには全く理解できない話だった」


 俺の妹とは思えないくらい可愛い澪には言うまでもなくちゃんと友達がいる。だからぼっちの俺とは絶対に分かり合えないだろう。


「お兄ちゃんには玲緒奈さんと里緒奈さんがいるんだからもうぼっちとは言えないでしょ」


「そのうち飽きられたらまたぼっちに戻るから」


「玲緒奈さんと里緒奈さんがお兄ちゃんに飽きる姿なんて想像出来ないんだけど」


 俺の言葉を聞いた澪はそうつぶやいた。ぶっちゃけ俺も全く想像できなかった事は内緒だ。ちなみに誕生パーティーが原因で澪には凄まじい勘違いをさせてしまったが一応誤解である事はしっかりと説明していた。

 まあ、信じてくれたかどうかは分からないが。玲緒奈と里緒奈の両親に関しては説明しようがなかったため誤解を解く事は一旦諦めた。また会う機会があれば説明をする予定だがそれはいつになるか分からない。


「そう言えば高校二年生は夏休み明けてちょっとしたら修学旅行があるよね」


「ああ、九月に修学旅行があって十月に学園祭だからめちゃくちゃだるい事にイベントが目白押しなんだよな」


「せっかくのイベントなんなんだからお兄ちゃんもしっかりと楽しまないと損だよ」


「そうだな、適度に頑張る」


 修学旅行も学園祭もぼっちの俺にとっては辛いイベントなので楽しめるとは思えないがとりあえずそう答えておいた。それから俺は歯磨きをした後部屋に戻って明日の準備を始める。

 夏休みの課題は基本的に明日が提出日のため忘れずにリュックの中に入れなければならない。せっかく里緒奈のおかげで全部終わったというのに持っていくのを忘れたら内申点をマイナスされてしまう。


「今年の夏休みはマジで色々あったな」


 初日の東京アクアランドから始まり岡山市立大学のオープンキャンパスや木更津の花火大会、誕生日パーティーなどちょっと思い返しただけでとにかく盛りだくさんだった。

 去年までは基本的にほとんど引きこもっていたためえらい違いだ。俺が嫌いなリア充のような夏休みを過ごしてしまった。

 そしてそのイベントの全てに玲緒奈と里緒奈が関わっていたと言える。今年の夏休みは二人との思い出がほとんどでありたまに澪が出てくる感じだ。

 そんな事を考えているうちに明日の準備が終わったため俺はベッドに腰掛ける。夏休み期間はゆっくり起きていたが明日からはまた早く起きなければならないため憂鬱だ。

 課題テストに寝坊するのはまずいためアラームをたくさんセットしておこう。そう思ってスマホを操作していると誰かから着信がかかってくる。画面には剣城玲緒奈と表示されていた。


「……もしもし?」


「涼也君さっきぶりだね、調子の方はどう?」


「明日から学校が始まるのに良い訳ないだろ」


「だよね、涼也君の事だからそう言うと思ってたよ」


「涼也らしい」


 電話の向こうからは玲緒奈だけでなく里緒奈の声もしているため多分スピーカーモードにして話しかけてきているのだろう。


「てか何で電話なんか急に掛けてきたんだ?」


「涼也と話したい気分になったから」


「そもそも私達が涼也君に電話をかけるのに理由なんて必要なのかな?」


「いや、別にそういう訳ではないけどさ」


 俺のようなぼっちは基本的に用事がなければ誰かに電話なんてしないが玲緒奈や里緒奈のような陽キャはそんなものがなくてもどんどん掛けまくっているはずだ。


「とりあえず明日は迎えに行くから待っててね」


「私とお姉ちゃんを置いて行ったら許さない」


「分かったよ」


 下手したら二人は俺がまだ寝ている時間に部屋にやって来る可能性があるので置いていく事はまずない。むしろ俺が置いていかれる側だろう。


「じゃあ明日もよろしくね」


「ああ、お手柔らかに頼むぞ」


「前向きに検討しておく」


 また学校でベタベタされてはたまらないと思ってそう口にしたが里緒奈の返答的にあまり期待できない気がした。それから電話を切った俺はそのままベッドに寝転ぶ。

 明日からの新学期は色々と心配や不安な事もあるがなるようにしかならないだろう。そんな楽観的とも捉えられそうな考え方をしたまま俺は眠りにつく。この時の俺はまだ玲緒奈と里緒奈の計画に気付いてすらいなかった。


———————————————————


こちらで前編はエピローグとします、ここまでお読み頂きありがとうございました!!


書籍化作業に集中するため更新は一旦ストップ、もしくは不定期になりますが、後編部分が2巻に相当する部分になる予定なので引き続きよろしくお願いします〜


もし良ければフォローと現状までの★評価を是非お願いします、文字付きレビューだとなお嬉しいです!

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