第53話 じゃあ今度は涼也君の番だよ
「ちなみに八神君は玲緒奈と里緒奈とはどういう関係なんだ? 君が二人の命の恩人という事は勿論知ってるけどそれだけとは思えないんだよな」
「それは……」
案の定快斗さんから関係を尋ねられたため俺は言葉に詰まる。父親のため可愛い娘の事はどうしても気になってしまうのだろう。どう答えるべきなのか考えていると玲緒奈がとんでもない言葉を口にする。
「涼也君と私達は誕生日プレゼントとしてペアリングを貰うような関係かな」
「えっ、そうなのか!?」
「お兄ちゃん本当!?」
「へー、ちょっとママに詳しく教えて欲しいんだけど」
驚く澪と快斗さんに対してエレンさんは興味津々な様子だ。そんな事を言ったら確実に勘違いされるに決まってるだろ。慌てて訂正しようとする俺だが今度は里緒奈が追い討ちをかけるような事を喋る。
「私達と涼也はパパとママが想像しているような関係」
「おいおいマジか、ちょっと前まで男の影すらなかったのにそんな事になってるのかよ……」
「両手に花だなんて涼也君も隅に置けないわね」
「……まさか陰キャでぼっちなお兄ちゃんに春が来るなんて」
間違いなくこの場にいる全員が勘違いをしてしまった事は明白でありここから誤解を解くビジョンが全く思い浮かばなかった。これがまさしく完全に詰みというやつだろう。
その後はノリノリで質問をしてくるエレンさんと完全に娘はやらん状態になってしまった快斗さん、取り調べのごとく根掘り葉掘り聞こうとして来る澪から話しかけられているうちにかなりの時間が経過した。料理を食べ終わり一通り話も済んだため俺と澪は席を立つ。
「じゃあ俺達はそろそろ帰るから」
「あっ、涼也君ちょっと待って。何かを忘れていない?」
「何か……?」
「私とお姉ちゃんに渡すものがあるはず」
「……そう言えば誕生日プレゼントをまだ渡してなかったな」
玲緒奈と里緒奈が勘違いさせるような発言をしたせいで大変だったためすっかりと忘れていた。さっさとペアリングだけ渡したら帰ろう。
「やっぱりただプレゼントを受け取るだけじゃつまらないと思うんだよね」
「せっかくだから涼也にペアリングをはめて貰いたい」
「えっ、それは……」
先程まで散々俺に精神的プレッシャーを与えてきていたというのに二人はまだ飽き足りないらしい。そんな事を考えていると玲緒奈と里緒奈はダイニングテーブルの上に置いていたBOXからペアリングを取り出す。
「とりあえず言い出しっぺの私と里緒奈がまずは涼也君の指にはめてあげるよ」
「そのままじっとしてて」
「……あっ、おい」
二人は同時に俺の手を取ると一瞬で右手と左手の薬指にペアリングをはめてくる。
「じゃあ今度は涼也君の番だよ」
「左手薬指にはめて欲しい」
そう口にした玲緒奈と里緒奈は当たり前のように左手薬指を差し出してくる。エレンさんや快斗さん、澪にも見られておりとてもではないが拒否できそうな雰囲気ではなそうだ。
だから俺は大人しく二人の左手薬指にそれぞれペアリングをはめる事しか出来なかった。玲緒奈と里緒奈はめちゃくちゃ嬉しそうだったが本当にこれで良いのだろうか。
「そうそう、ペアリングはちゃんと毎日つけてもらうからね」
「私達の許可なく外す事は許さない」
「もしかして学校でもか……?」
「うん、勿論だよ」
俺達の学校は校則が緩いため髪染めやアクセサリーの着用も許可自体はされいる。だから学校でも一応体育などの時間以外はつけていても問題はないがどう考えてもペアリングは悪目立ちしそうな予感しかしない。
「それは流石に勘弁して欲しいんだけど」
「だめ、もう決定事項」
「涼也君がつけてるかどうか毎日チェックするからね」
こうなった二人には何を言っても無駄なため諦めるしか無さそうだ。ただでさえ夏休み明けの学校は憂鬱だというのに苦痛が倍増してしまったと言えるだろう。
そして今のやり取りのせいで間違いなくますます誤解をさせてしまった。もはやここからの巻き返しはもう不可能な気しかしない。どうするんだよマジで。
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