第52話 私とお姉ちゃんの中ではもう他人じゃない

 そんな事を考えていると扉がノックされ玲緒奈と里緒奈の母親であるエレンさんがやって来る。エレンさんは四十代くらいのはずだがそうは見えないほど若々しい。


「皆んなお待たせ、準備できたわよ」


「はーい、じゃあ行こうか」


「今年も楽しみ」


 玲緒奈の部屋を出た俺と澪は三人の後について行ったわけだがダイニングに足を踏み入れた瞬間突然クラッカーが鳴り響く。


「玲緒奈、里緒奈誕生日おめでとう」


 クラッカーを手にしてそう口にしたのは玲緒奈と里緒奈の父親である快斗さんだ。


「パパ、クラッカーは少しだけ気が早くない?」


「普通はおめでとうを言うタイミングとかで鳴らすと思う」


「ごめんごめん、勢い余ってつい」


 玲緒奈と里緒奈からジト目で見られる快斗さんは少し恥ずかしそうな表情でそう答えていた。そんな様子を見ながらひとまずダイニングテーブルにつく。

 ダイニングの中も誕生日パーティー用に綺麗に飾り付けされておりテーブルの中央には手作りであろう大きなホールケーキが置かれていた。もうそれだけで二人が両親からどれだけ愛されているのかがよく分かる。


「じゃあ準備もできた事だし、誕生日パーティーを始めましょう」


「ろうそくに火をつけたらとりあえず毎年恒例の歌を歌わないとな」


「火は私がつける、電気はお姉ちゃんお願い」


「うん、分かった」


 里緒奈はライターで1と7の数字の形をしたろうそくに火をつけ、それを確認した玲緒奈はダイニングの明かりを消す。

 そして俺達は全員でハッピバースデートゥーユーから始まる誕生日の歌を歌い始める。玲緒奈はこの誕生日の歌でもガンガン音を外しまくっていたため筋金入りの音痴なのだろう。


「「玲緒奈、里緒奈おめでとう」」


「二人ともおめでとう」


「おめでとうございます」


 歌が終わったタイミングで俺と澪、エレンさん、快斗さんはそれぞれそう口にしながら拍手をした。玲緒奈と里緒奈は俺達の言葉と拍手に包まれながら息を吹きかけてろうそくの火を消す。

 それから俺達は全員で用意されていた料理を食べ始める。料理は海外ドラマのホームパーティーなどに出て来そうな感じのメニューであり、言うまでもなく味もめちゃくちゃ美味しかった。


「玲緒奈と里緒奈もとうとう十七歳か、来年で成人って考えると本当にあっという間だった気がするな」


「そうね、私の中だとまだ小さい子供の頃のイメージが強いんだけどね」


「それは流石にイメージが昔過ぎでしょ」


「そろそろ最新の情報にアップデートして欲しい」


 エレンさんの言葉を聞いた玲緒奈と里緒奈はほんの少し呆れ顔だ。そんな風に家族四人で楽しそうに団欒する姿はめちゃくちゃ絵になっている。

 俺もこんな感じで将来家族で誕生日パーティーが出来たら良いなと一生独身の可能性が高いくせに思ってしまった。

 同じ遺伝子が入っているとは思えないくらい可愛い澪なら絶対結婚出来るはずなので甥や姪の誕生日パーティーに参加させて貰う事にしよう。


「それにしても玲緒奈と里緒奈が誕生日パーティーに家族以外を呼ぶなんて思わなかったから驚いたぞ」


「今まではそんな素振りすらなかったから正直意外だったわ」


「涼也君と澪ちゃんは家族も同然な存在だから」


「私とお姉ちゃんの中ではもう他人じゃない」


「へー、玲緒奈と里緒奈がそこまで言うなんて二人とも愛されてるのね」


 玲緒奈と里緒奈の言葉を聞いたエレンさんは楽しげな表情でそう口にした。両親の前でそんな事を言っても本当に大丈夫なのかよ。まあ、二人は大丈夫と考えているからこそ喋ったのだろうが。

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