第51話 涼也とは体の恥ずかしい部分まで見せ合った仲

 八月二十一日の今日、俺は玲緒奈と里緒奈の誕生日パーティーへ参加するために出かける準備をしていた。パジャマから昨日買って貰った服に着替えて洗面所で寝癖を直していると澪が話しかけてくる。


「お兄ちゃんがそんな服を着るなんて違和感しかないんだけど」


「俺も違和感しかない」


「とりあえずお兄ちゃんの準備ができたら出発しよう」


「ああ、そうしようか」


 今日の誕生日パーティーには澪も呼ばれているため一緒に行く予定だ。ちなみに誕生日パーティーは毎年家族だけでやっているイベントらしい。

 最初は家族団欒の邪魔になると思って断っていたのだがどうしても参加して欲しいと二人から猛プッシュされたため参加を決めた。

 玲緒奈と里緒奈曰く俺と澪は家族も同然の存在だから参加して欲しかったらしい。二人の両親とは一応顔見知りで話した事もあるのでそんなに気まずい空気にはならないはずだ。


「それにしても玲緒奈さんと里緒奈さんの家ってどんな感じなんだろうね」


「実は俺も行くのは今回が初めてだから全然知らないんだよな」


 玲緒奈と里緒奈は俺の家に入り浸るのが好きだったため勉強などをする時も基本的にここだった。だから何だかんだで二人の家には一回も行った事がない。

 そんな話をしているうちに寝癖も直し終わったため俺達は出発する。道中で手土産のプリンを買った俺達は事前に教えて貰っていた住所へとやって来たが、そこには立派な豪邸が存在していたのだ。


「……ねえ、本当にここなの?」


「住所はここであってるはずだけど」


「玲緒奈さんと里緒奈さんってもしかして凄まじいセレブなのかな?」


「かもしれないな……」


 俺と澪は外観を見ただけで圧倒されていた。八神家はいわゆる中流階級に所属する平均的な家庭だが剣城家はどう考えても上流階級の富裕層だ。

 文字通り俺や澪とは住む世界が全くと言って良いほど違う。しばらく澪と二人揃って門の前で固まっていると玄関の扉が開く。


「涼也君、澪ちゃんおはよう」


「二人が中々インターホンを鳴らさないから迎えにきた」


 中から玲緒奈と里緒奈が出てきたという事はやはりここが二人の家のようだ。俺と澪は案内されて恐る恐る家の中に入るが内装も外観に劣らずかなり豪華であり凄まじい場違い感を覚えた。


「涼也も澪ちゃんもさっきから静かだけど大丈夫?」


「ちょっと緊張しててさ」


「そっか、涼也君は女の子の家に入るのは初めてだもんね」


 いや、それに関しては全くと言って良いほど緊張はしていない。以前の俺であれば間違いなく緊張していたはずなので完全に感覚が麻痺してしまっている。二人に揶揄われそうだったのであえてそれは言わなかったが。


「パパとママの準備が出来るまでもう少し時間がかかりそうだから一旦私の部屋に行こうよ」


「ああ、分かった」


「よろしくお願いします」


 俺達は案内されて玲緒奈の部屋へと足を踏み入れた。部屋の中は整理整頓されており女の子らしさの出た可愛い雰囲気が出ている。


「人生で初めて女の子の部屋に来た感想は?」


「部屋の中が思ったより綺麗だった」


「……思ったより綺麗ってのはどういう事?」


「そのままの意味だけど」


 玲緒奈から感想を聞かれたため正直に答えた俺だが不満そうな表情になってしまった。だって玲緒奈って意外とだらしないところあるじゃん。そんな事を思っていると里緒奈が喋り始める。


「朝一緒に片付けるまでお姉ちゃんの部屋は結構散らかってた」


「ちょっと、里緒奈。澪ちゃんの前で私のカッコいいイメージをぶち壊すような事は言わないでよ」


「誤魔化してもいずれバレる」


「そもそも寝ながら服を脱ぐ癖がある時点で玲緒奈にかっこよさなんて微塵もないからな」


 里緒奈に便乗して玲緒奈をいじる俺だったがすぐに自分がとんでもないやらかしをしてしまった事に気付く。


「えっ、何でお兄ちゃんが玲緒奈さんにそんな癖がある事なんて知ってるの!?」


 寝ながら服を脱ぐ癖がある事なんて一緒に寝た事でもなければ普通は知り得ない情報だ。二人と当たり前のように何度も一緒に寝ていたせいで完全に感覚が麻痺していたが、普通は付き合ってもいない男女が同じ寝床で眠る事などまずあり得ない。

 何とかして誤魔化さないと大変な事になる未来が容易に想像出来たため俺は言い訳を口にしようとする。だがそれより前に玲緒奈と里緒奈が爆弾発言を投下してしまう。


「もう誤魔化せそうにないから澪ちゃんには本当の事を言うけど私と里緒奈は涼也君とはもうそういう関係になってるから」


「涼也とは体の恥ずかしい部分まで見せ合った仲」


 その言葉を聞いて澪は完全に固まってしまった。そういう関係や体の恥ずかしい部分という言葉を聞いて連想する内容なんてどう考えても一つしかない。


「まさかお兄ちゃんが玲緒奈さんと里緒奈さんに手を出すなんて……」


 二人のせいで澪には間違いなく勘違いされてしまった。何とかして誤解を解こうとは思うが果たして上手く行くのだろうか。

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