第50話 もし涼也が私達の前から居なくなっても地の果てまで追いかけて探す

「もう十四時前だしそろそろお昼にしようよ、涼也君と里緒奈は何か食べたい物ある?」


「涼也とお姉ちゃんに任せる」


「うーん、俺も特にないな……あっ、でもカップル限定メニューは流石にもう勘弁してくれ」


「えー、せっかく今日も頼もうと思ってたのに」


 どうやら東京インクルージョンスクエアの時と同じくまたカップル限定メニューを頼もうとしていたらしい。もう少しであの時の二の舞になるところだったからマジで危なかった。

 その後三人で話し合った結果昼食はファストフードチェーン店のワクドナルドに決まったため俺達は早速飲食店街へと向かう。

 ワクドナルドは大きなショッピングモールなどには必ずあるから本当に便利だ。到着すると夏休み期間という事もあって店内はそこそこ混んでいた。俺達は注文を受け取ると空いていた席につく。


「なあ、あの二人めちゃくちゃ可愛くね?」


「それな、身長も高くてスタイルも良いから完璧だよな」


「あんな子が彼女になってくれたらな」


 二人は相変わらず男性達の注目の的になっており周りからはそんな声がちらほらと聞こえてくる。


「一緒にいるあいつは何なんだろう? どう見ても釣り合ってないから彼氏はあり得ないと思うけど」


「どうせ荷物持ち要員か財布要員だろ」


「用済みになったらどうせ捨てられる」


 俺に対する嫉妬や羨みの視線や言葉も平常運転のようだ。どこへ行っても何をしていてもこんな感じなので毎日のように一緒にいる俺はもはや何とも思わなくなっている。

 人間の慣れとは本当に怖いものだ。そんな事を考えていると玲緒奈が俺の手首を掴んで引き寄せ、そのまま手に持っていた食べかけのテリヤキバーガーをパクリと食べる。


「おい、急に何するんだ」


「涼也君の食べてたテリヤキバーガーが美味しそうだったからつい、代わりに私のベーコンレタスバーガーを一口あげるよ」


 そう言って玲緒奈は食べかけのベーコンレタスバーガーを目の前まで差し出してきた。俺は何も考えずそれにかぶりつく。


「へー、ちょっと前まで間接キスを気にしてたのにもう平気になったんだね」


「まあ、もう今更だし」


「じゃあ今度は私も」


 今度は里緒奈も先程の玲緒奈と同じように俺のテリヤキバーガーを食べ、そのお返しに差し出されたチーズバーガーを一口分貰う。

 ここ最近は本当に色々な事があり過ぎて俺の感覚は以前と比べるとだいぶ麻痺してしまっているはずだ。ちなみに周りの男性陣からの嫉妬や羨みの視線がより強くなった事は言うまでもない。しばらくして食事を終えた俺達はワクドナルドを出た俺達はプラネタリウムへと向かう。

 俺が遠方という理由だけで何気なく選んだここは全国でも珍しいプラネタリウムがあるショッピングモールだったためせっかくなので行く事にした。中に入った俺達はシートに座って天井や壁に投影された星空を眺める。


「あれがはくちょう座のデネブ、あっちがわし座のアルタイル、あそこにあるのがこと座のベガで、三つの星を結んだのが有名な夏の大三角」


「へー、やっぱり里緒奈は物知りだな。俺はあんまり興味なかったからぶっちゃけ名前くらいしか知らなかったし」


「うん、私も涼也君と同じく名前くらいしか知らなかったよ」


 説明のナレーションに補足をするような形で里緒奈は俺と玲緒奈に分かりやすく解説してくれた。里緒奈は本当に何にでも精通しているな。


「昔から夜空の星を見るのが好きだったからよくママと一緒に星を眺めてた」


「あれっ、玲緒奈は一緒じゃなかったのか?」


「お姉ちゃんは眠いし興味ないって理由で全然付き合ってくれなかったから」


「ちょっと、里緒奈。さらっとバラさないでよ」


「でも事実」


 玲緒奈と里緒奈はいつも一緒に行動しているイメージがあったがそういう理由か。まあ、確かに玲緒奈が大人しく星を眺める姿なんて全く想像出来ないため違和感はない。

 それからあっという間に一時間半が経過しプラネタリウムの上映は終了した。朝からずっと遊んでいて流石に疲れたため俺達はそろそろ帰る事にする。二人も満足してくれたようなので帰宅を提案しても反対はされなかった。


「……そう言えば結局朝聞き損ねてたから今聞くんだけど玲緒奈と里緒奈は何で俺がここにいる事を知ってたんだ?」


「それは乙女の秘密だから教えてはあげられないけど涼也君がどこへ行ったとしても私達には分かるから」


「もし涼也が私達の前から居なくなっても地の果てまで追いかけて探す」


 二人は平然とそう言い放ったが完全にストーカーの発言にしか聞こえない事には果たして気付いているのだろうか。いや、むしろ分かってて言ってそうな気もするな。

 いつか二人の中の八神涼也熱が冷めて俺から離れていくと思っていたが、果たして本当にそんな日はやって来るのだろうか。下手したら熱は冷めるどころか一生燃え上がり続けるのではないかと思ってしまう自分がいた。

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