第49話 それはちょっと理由にならないかな

 引き続きショッピングをしながら歩いていると玲緒奈が何かを見つけたようで立ち止まって話しかけてくる。


「あっ、見て。猫カフェだって」


「へー、結構人が入ってるな」


「皆んな楽しそう」


 ガラス張りになっているため店舗の中が少しだけ見えたが中ではたくさんの人達が店内を自由気ままに歩き回る猫と触れ合っていた。


「せっかくだしさ、私達も中に入らない?」


「賛成、猫をモフりたい」


「二人がそう言うなら付き合うぞ」


 入り口で受付とドリンクの注文を済ませた俺達は早速猫達のいるエリアへと入っていく。ちなみにドリンクは完成次第呼び出しベルが鳴り自分達で取りに行く方式のようだ。


「猫カフェに来るのは今回が初めてだけど中はこんな風になってるんだな」


「そうだったんだ」


「私とお姉ちゃんが涼也の初めてをまた一つ奪った」


 玲緒奈と里緒奈は何故か嬉しそうだった。俺の初めてに一体何の価値を感じているのかさっぱり分からないがあえてツッコミを入れる気はない。


「初めての涼也君にアドバイスだけど猫ちゃんには姿勢を低くして近付いた方がいいよ」


「姿勢が高いと威圧感とか恐怖感を与える」


「なるほど、触れ合い方にもコツがあるのか」


 レクチャーを受けた俺は姿勢を低くくして近くにいた猫に近づく。そして優しく体を撫でると気持ちよさそうにしていた。

 そのまましばらくモフっているとポケットに入れていた呼び出しベルが鳴り始めたため飲み物を受け取る。そして座って飲んでいるとさっき撫でていた猫が膝の上に座ってきた。


「へー、自分から乗ってくる事もあるんだな」


「中々乗って貰えないから涼也君は結構運が良いと思う」


「うん、羨ましい」


 周りを見渡しても膝の上に乗って貰えている人は俺以外誰もいなかったため相当運が良いに違いない。そんな事を考えていると玲緒奈が店内に設置されていたガチャガチャを回してカプセルを持ってくる。


「さっきから気になってたんだけど何のガチャガチャなんだ?」


「ああ、猫ちゃんにおやつをあげるために設置されてるものだね」


 そう口にしながら玲緒奈はカプセルの中からおやつを取り出す。すると匂いに釣られた猫達が玲緒奈の足元に大挙して集まってきた。


「めっちゃ寄ってきたんだけど!?」


「やっぱりこうなっちゃったか」


「猫ちゃん達は餌に弱い」


 その光景に驚いている俺に対して二人は冷静だった。多分こうなる事が初めから分かっていたのだろう。だが俺の膝の上に座っていた猫だけは餌が近くにあるというのに特に動こうとする素振りがなかった。


「……さっきからその子に懐かれ過ぎじゃない?」


「何でか分からないけどめちゃくちゃ懐かれてるな」


「涼也が私とお姉ちゃん以外の女の子とイチャイチャするのはちょっと許せない」


「イチャイチャするも何も人間じゃなくて猫だからな、てかこいつ雌なのかよ」


 雌猫と仲良くしているだけでそんな事を言い始めるのだから人間の女の子とイチャイチャした日には何をされるか分からない。まあ、そんな女の子が現れるとは到底思えないが。

 玲緒奈と里緒奈からの責めるような視線から解放されたかった俺は猫を降ろして別の席に移動したのだが、ついてきてしまいまた膝の上に乗ってきた。

 その後猫カフェを出るまで何度か席を移動したのだがそのたびに追いかけてきて俺の膝の上に乗ってきたため二人の視線がどんどん厳しくなった事は言うまでもない。


「涼也君モテモテだったね」


「お持ち帰りしそうな勢いだった」


「向こうが勝手に擦り寄ってきただけで俺は悪くないぞ、てか何度も言ってるけど猫だから」


「でも女の子って事には変わりない」


「あーあ、まさか私達の涼也君が女たらしになっちゃうなんて」


 玲緒奈と里緒奈から詰められてまるで浮気を責められているような気分にさせられていた。何が二人をそこまで不機嫌にさせたのかは分からないがとにかく居心地は最悪だ。


「あっ、そうだ私達も涼也君の膝の上に座らせてよ」


「えっ、それは色々まずくないか……?」


「猫ちゃんは良いのに私とお姉ちゃんはだめな理由を教えて欲しい」


 玲緒奈と里緒奈は真顔でそう口にした。このままだと二人は間違いなく俺の膝の上に座ってくるため何とかして説得を試みる。


「流石に猫と人間は訳が違うだろ」


「それはちょっと理由にならないかな」


「涼也の膝についた雌の匂いを上書きさせてくれるまで帰らせない」


 うん、これは無理だ。諦めて膝の上に満足するまで座らせない限り俺は助かりそうにない。


「じゃあ涼也君も分かってくれたみたいだし早速ここに座って貰おうか」


「……えっ、せめてもう少し人通りの少ないところにしてくれないか?」


「だめ、これは涼也に対する罰も含まれてるから」


 そう口にした二人は人通りのめちゃくちゃ多いベンチに俺を座らせて交代で俺の膝に座ってくる。道行く人達から思いっきりじろじろと見られまくったせいで恥ずかし過ぎて死にそうになったがひとまず玲緒奈と里緒奈の機嫌は直った。

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