第45話 私とお姉ちゃんは別に気になってない

「ねえ、涼也君。何で先に寝たの?」


「つ、疲れてたから……」


「それで私とお姉ちゃんを放置したの?」


「……まあ、結果的にはそうなるな」


 朝になった俺は現在進行形で玲緒奈と里緒奈から尋問を受けている。目覚めて最初に飛び込んできたのは玲緒奈と里緒奈が俺の前でこちらを見つめて立っている姿だった。体からヤバそうなオーラが出ていたため寝ぼけていた頭が一瞬で目覚めた事は言うまでもない。


「あーあ、一緒に寝るのを楽しみにしてたのにまさか涼也君に裏切られるなんて思わなかったな」


「ショックのあまり私もお姉ちゃんもよく眠れなかった」


「それは流石に大袈裟だろ」


「せっかくラブホテルに泊まったのに何も無かったなんて悲しくて誰にも言えないよ」


「いやいや、何かあったとしても誰かに言ったら不味いから」


 玲緒奈と里緒奈は欲求不満そうな顔をして俺を責め立てているが何がそこまで駄目だったのかさっぱり分からなかった。

 一瞬だけまさかそういう意味なのかなとも考えたりしたが日陰者でしかない俺の事をキラキラと輝いている玲緒奈と里緒奈が恋愛対象として見るなんてまずあり得ない。

 今ここまで俺に絡んできているのは一過性のもので二人の中の八神涼也ブームが過ぎ去ればもう関わって来なくなるはずだ。

 そして俺の事なんて記憶から跡形も無く消えてしまうに違いない。そう考える俺だったが何故かは分からないがとてつもなく大きな勘違いをしているような気もした。


「涼也君さっきからぼーっとしてるけど私達の話は聞いてる?」


「……あっ、ごめん」


「ちゃんと聞いてなかった涼也には罰を与えないと許せそうにない」


「今回は特に厳しくするから」


 完全に自分の世界に入っていた俺の自業自得なのだが玲緒奈と里緒奈の怒りを買ってしまったため今度はどんな無茶振りをされるのか分からないため非常に怖い。

 俺に罰を与える事が決定して二人がようやく落ち着いてきたため朝食をとる事にする。枕元の受話器からフロントに電話をかけて朝食の注文をして、しばらく経ってから部屋に運ばれてきた。


「へー、小窓から受け取るようになってるのか」


「スタッフと直接顔を合わせたくないって人のために配慮してるみたいだね」


 確かにここは普通のホテルではないためその辺りは気を利かせてくれているようだ。もう二度とラブホに来る機会なんてないと思うが普通に勉強になった。

 それからゆっくりと朝食を済ませて荷物をまとめた俺達は入り口に設置されていた自動精算機で料金を支払ってそのままラブホの外に出る。


「よく晴れてる」


「うん、これだけ良い天気だと気分が良いよね。今日は何しよう?」


「せっかく木更津にいるから色々と観光したい」


「……なあ、二人で盛り上がってるところ悪いんだけどとりあえずここから移動しないか?」


 ラブホの入り口で男女三人という組み合わせはとにかく目立ちまくっており道行く人々からめちゃくちゃじろじろ見られていた。言うまでもなく俺には男達から憎悪の視線を向けられている。


「えー、ちょうど日陰になってるからもう少しここで話したいんだけど」


「さっきから周りの視線がマジでやばいんだって」


「私とお姉ちゃんは別に気になってない」


「俺が全然大丈夫じゃないんだが……」


「気にしたら負けだよ、むしろ私達の姿をどんどん見せつけて行こうよ」


 うん、これ以上玲緒奈と里緒奈に何を言っても時間の無駄だ。二人の気が済むまでこの公開処刑とも言える行為にただひたすら耐えなければならないらしい。

 結局二十分近く玲緒奈と里緒奈は話し続けてくれたため俺のライフはゼロを下回りマイナスに突入するはめになった。

 やっと地獄から解放されてほっとする俺だったがその後の木更津観光でも容赦無くめちゃくちゃに振り回されたため、夕方家に帰る頃には足腰が立たなくなるほどくたくたになっていた事は言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る