第44話 もうさっきからマジであれがこれでヤバいから

「……てか脱衣所から浴室の中がスケスケで丸見えじゃん」


「ラブホテルだからね」


「そのくらい当然」


 俺達のような例外を除いて基本的にラブホテルにくる男女は性行為が目的のため裸を見られる事には抵抗が無いのだろう。

 服を脱ぎ終わった俺達は浴室へゆっくりと足を踏み入れる。相変わらず玲緒奈と里緒奈はタオルすら巻いていない。やはり堂々と見せつけるスタイルのようだ。


「涼也君そこに座って、私と里緒奈が体を洗ってあげるから」


「自分で洗えるから大丈夫だって」


「遠慮はいらない」


 抵抗も虚しく俺は無理矢理バスチェアに座らされた。そのまま玲緒奈と里緒奈はシャンプーを使って俺の髪から洗い始める。


「やっぱり男子は髪が短いから洗いやすいね」


「私は短い方だけどお姉ちゃんは長いから大変」


 完全に固まって一言も喋らない俺に対して二人は楽しげな様子だ。少しして髪を洗い終わった二人はそのまま体へと移行をするが下半身にまで手を伸ばしてくる。


「下半身は流石に自分で洗うから」


「私達と涼也君の仲じゃん、今更恥ずかしがる事なんてないと思うんだけど」


「嫌な理由を教えて欲しい」


「そ、それは……」


 下半身を触られると必死に理性で押さえ込んでいる愚息が元気になってしまう可能性があるためそれだけは絶対嫌なのだがそんな事を言えるはずがなかった。


「何も言わないって事は別に問題ないって事だよね」


「じゃあ洗うからじっとしておいて」


「おい!?」


 玲緒奈と里緒奈は俺の制止を無視して洗い始めてしまう。俺は必死に心を無にして耐えていたがもはや拷問レベルであり一秒が何百倍にも感じた。ようやく体を洗い終えてくれたためやっと解放されると安堵する俺だったが残念ながらそうはいかないらしい。


「今度は涼也に私とお姉ちゃんの体を洗って貰いたい」


「……それはちょっと勘弁して欲しいんだけど」


「ふーん、私達には洗わせておいて涼也君はお返しをしてくれないんだ」


「いやいや、むしろ無理矢理洗われた気がするんだけど。てか、そんな言い方をされると俺がクズ男みたいに聞こえるから辞めろ」


 二人して迫ってくる玲緒奈と里緒奈に対して俺は全力で抵抗を試みる。だが全然納得してくれなかったため結局洗う事になってしまった。

 ひとまず俺は玲緒奈の髪にシャンプーをつけてゆっくりと泡だて始める。長い髪のため時間は掛かってしまったが一通り洗う事ができた。


「シャワーで泡を洗い流すから目を閉じててくれ」


「うん、よろしく」


 俺はシャワーのお湯を玲緒奈の頭にかける。シャワーの水圧でシャンプーの泡はみるみるうちに流れていき綺麗になった。


「涼也君、なんか女の子の髪洗うの手慣れてない?」


「私も思った、涼也はもしかして経験者?」


「まあ、一応は」


「へー、一応って事は私達が初めてじゃないんだ」


「どこの誰をどんな経緯で洗う事になったのか詳しく教えて貰いたい」


 下半身に意識を集中させ過ぎていたため何も考えずに答えた俺だが玲緒奈と里緒奈が凄まじいプレッシャーを俺に容赦なく浴びせてきたためようやくやらかしてしまった事に気付く。


「み、澪が小さい頃によく洗ってただけだからな」


「本当かな、もし嘘だったら涼也君に何をするか分からないけど」


「涼也には死ぬよりも辛い罰を受けてもらう事になる」


「そんなに疑うならこの後澪に電話して直接聞いてもらっても良いから」


 俺はそう必死になって説明をした。まさに口は災いの元とはこの事だろう。そのため愚息が元気にならないよう下半身を適度に意識しつつ会話の内容にも細心の注意を払わなければならなくなり凄まじく大変だった事は言うまでもない。


「この辺でそろそろ勘弁してくれないか……?」


「えー、胸と下半身は洗ってくれないの?」


「ここからが本番」


「もうさっきからマジであれがこれでヤバいから」


 俺は支離滅裂になりながらそう懇願したが結局許して貰えず結局二人の体まで洗うはめになった。流石に下半身の大事な部分だけは何とか許してもらったが不満げな表情を見るとそこもしっかりと俺に洗わせるつもりだったらしい。よく同級生にそこまでさせる気になるよな。


「……狭いからもう出たいんだけど」


「せっかく三人で入ったんだからもう少し楽しもうよ」


「中々こんな機会はない」


「頻繁にそんな機会があっても困るんだがな……」


 流石に浴槽は三人で一緒に入るような設計にはなっていなかったためとにかく密着する必要があり色々な意味でまずかった。

 だから俺は隙を見て浴室から逃げるようにして飛び出したが、二人が追いかけて来なかった事を考えるとある程度は満足してくれたのかもしれない。


「……疲れ過ぎてだるさが半端ないし、もう寝よう」


 俺は適当にタオルで髪を吹き上げバスローブを身につけるとそのままソファーに横たわる。一瞬で意識が朦朧とし始めたためすぐに眠れるはずだ。この時の俺は先に寝てしまったせいで玲緒奈と里緒奈に朝から激詰されになる事をまだ知らない。

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