第41話 エッチな内容でもちゃんと聞く

 玲緒奈と里緒奈のあーん攻撃はその後も続きそろそろ解放して欲しかった俺は食べ物以外の屋台を提案してみる事にする。


「良い加減食べるばかりなのも飽きてきたしさ、今度はあそこの屋台で射的をしないか?」


「へー、面白そうだね」


「やってみたい」


「よし、そうしよう」


 二人とも食い付いてくれたため屋台に向かう。ほとんど人がいなかったためすぐに遊べそうだ。屋台に到着して数分も経たないうちに順番が回ってきたためひとまずルール説明を聞く。

 倒した的の合計得点に応じて景品が貰えるシステムだが配点の高い的になればなるほど小さくなるため倒しにくいらしい。


「あっ、そうだ。せっかくだし、点数で勝負しない?」


「それなら一位になった人が負けた二人に好きな命令を一つだけできる権利を景品にしたい」


「えー、それはちょっと……」


 どんな無茶振りをされるか分からないためそれは嫌だった。俺が一位になれば回避できるがそれ以外の場合は玲緒奈か里緒奈の命令を聞かなければならないためどう考えても不利だ。


「勿論涼也君が勝ったら私達はどんな命令でも従うよ」


「エッチな内容でもちゃんと聞く」


 そう言われて俺は心が揺れ動き始める。悲しい事に俺もエロい事を期待してしまう年頃の男子らしい。


「よし、涼也君も納得してくれたみたいだし早速やろうか」


「おい、一言も納得したとは言ってないぞ」


「納得してなかったらさっき否定してたはず、それをしなかったって事は涼也が納得した事と同義」


「……マジかよ」


 エロに釣られたせいで勝負を引き受けなければならなくなり本当に情けなかった。まあ、釣られていなかったとしても多分結果は変わらなかっただろうが。

 やはり俺が救われるためには二人に勝つしかないようだ。それから俺達はお金を払ってコルク銃を手に取ると三人で射的を始める。


「やっぱり中々狙い通りにはコルク飛んでいかないな……」


 俺は無難に当てやすい的だけを狙ってコツコツと点数を稼ぐ作戦で勝負しようとしていたがコルクが真っ直ぐ飛んでくれないためかなり苦戦していた。玲緒奈も俺と同じように悪戦苦闘しており思い通りには言っていない様子だ。

 それに対して里緒奈はコルクを手に取ったり銃を構えてはいたりはしたもののまだ一発も撃ってなかった。その行動の意図は何なのだろうかと思っているとようやく一発目を発射する。


「うわっ、よりにもよってそれを倒すのかよ」


「里緒奈、凄いじゃん」


 里緒奈の発射したコルクは真っ直ぐと飛んでいき見事に一番小さな的を倒した。多分まぐれだとは思うがこのままだと負けてしまうためこれ以上奇跡は起こって欲しくない。

 だが里緒奈の撃ち出したコルクは二発目と三発目も一直線で飛んでいき得点の高い的を倒してしまった。もはや完全に勝ち目がなくなった事を悟った俺が戦意を喪失した事は言うまでもない。

 その後も百発百中で命中させ続けて最終的に里緒奈は俺と玲緒奈を圧倒的に引き離して勝ってしまった。その後俺達は店員から景品を受け取って射的の屋台を離れてベンチに座る。


「……さっきのは一体どういうカラクリなんだ? ほとんどのコルクが真っ直ぐ飛んでたように見えたんだけど」


「どう考えても偶然じゃないよね」


「コルクが真っ直ぐ飛んだカラクリはこれ」


 俺と玲緒奈から質問をされた里緒奈は巾着袋の中から何かを取り出す。それはよく女子が使っているハンドクリームだった。


「コルクが真っ直ぐ飛ばないのは表面のデコボコが原因、だからハンドクリームでそのデコボコを塞いだ」


「へー、そんな裏技があったんだ」


「そんなのありかよ……」


 俺には思いつきすらしなかった方法を里緒奈は実行したようだ。なるほど、それですぐに撃ち始めなかったのか。里緒奈は続けて他のカラクリについても話し始める。


「それとコルク銃のレバーを引いた後にコルクを込めてた、その方が圧力がかかって良く飛ぶから」


「やっぱり里緒奈は凄いね」


「俺達は勝負する前から負けてたんだな」


「情報を制した者が勝負にも勝つ」


 勝負においてどれだけ情報が重要かを激しく痛感させられた。玲緒奈はともかく里緒奈には何で勝負をしても勝てる気がしない。


「って事で一位になったから好きな命令を一つだけできる権利は私のもの、今は思いつかないから考えておく」


「お手柔らかに頼むね」


「頼むからなるべく優しい命令にしてくれよ」


「前向きに検討する」


 確か以前玲緒奈も同じような言い回しをしていた気がするがそれは初めからあんまり考える気がない奴の常套句だからな。

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