第40話 それが手に入らないと私とお姉ちゃんは困る

 しっかりと海ほたるを満喫した俺達はバスに乗って木更津方面へと移動を始める。東京から海ほたるまでは海底トンネルだったがそこから先は海上を走るため綺麗な景色を見る事が出来た。

 しばらくして木更津駅西口に到着したバスから降りた俺達は事前に調べていた浴衣のレンタル店へと向かう。やはり花火大会には浴衣を着て参加したいと二人が言い始めたためそうなったのだ。今回もまた赤と青を選ぶのかと思いきや今回は違った。


「今回は玲緒奈がピンクで里緒奈が水色なんだな」


「毎回同じ色だとマンネリ化するから」


「そうそう、涼也君だって毎回違う刺激がないと飽きちゃうと思ってさ」


 ピンクと水色もめちゃくちゃ似合っていた事は言うまでもない。まあ、美人な二人なら何色を着ても似合うと思うが。

 ちなみに俺も美観地区の時と同様着るようにせがまれたため今回は黒の浴衣を着ることにした。その後花火大会の会場である木更津港へと三人で歩いていると神社が目に入る。


「ねえ、里緒奈あそこに見える神社って知ってる?」


「あれは八剱八幡やつるぎはちまん神社で千葉のパワースポットの一つ」


「へー、よく知ってるな。ちなみにどんなご利益があるんだ?」


「全部は覚えてないけど安産祈願とか厄除、合格祈願、心願成就はあった」


「じゃあせっかくだから寄って行こうよ、まだ花火大会が始まるまではだいぶ時間もあるし」


 特に異論は無かったため立ち寄る事にした。鳥居をくぐって境内に入った俺達はひとまず手水舎で手を清め始める。俺と玲緒奈は結構適当だったが里緒奈はその辺りの作法もちゃんと知っているようで動きが洗練されていた。

 そして御本殿の賽銭箱にそれぞれ五円硬貨を入れて三人で参拝する。確か二拝二拍手一拝で良かったよなと思いながら参拝するが、割とすぐ終わった俺とは対照的に玲緒奈と里緒奈はめちゃくちゃ長時間拝んでいた。


「……そんなに長時間拝む必要あったか?」


「実は今めちゃくちゃ欲しいものがあってさ、それが絶対に私と里緒奈のものになるように必死でお願いしてたんだよ」


「それが手に入らないと私とお姉ちゃんは困る」


「そこまで熱心に祈ったんならきっと大丈夫だ、俺にも手伝える事があれば遠慮なく言ってくれ」


 玲緒奈と里緒奈が何を欲しがっているのかはちょっと想像出来なかったが二人なら手に入れられると思う。そこまで考えた俺だが何故か激しい寒気がした。夕方が近付きつつあるとは言えまだ暑い時間のはずなのに本当に不思議だ。

 それから八剱八幡神社を出た俺達は再び木更津港を目指して歩き始める。神社からは割と近かったため大体十分くらいで到着した。

 カラフルな浴衣を着た美少女を二人もはべらせている俺に対してすれ違う男性達から嫉妬のような視線を現在進行形で向けられているが慣れてしまったためもはや全く気にならなくなっている。

 最初の頃はとにかく苦痛で仕方なかったが今では何も感じていないため本当に慣れって恐ろしいと思う。だんだん自分の感覚が麻痺している事をひしひしと感じているが玲緒奈と里緒奈と一緒に行動している以上は多分避けられないだろう。


「屋台もたくさん出店されてるしとりあえず何か食べようぜ」


「そうだね、今日はお昼が早かったから結構お腹も空いてきたし」


「色々あるから迷う」


 俺達は屋台を回り始める。会場には屋台が五百店ほど出店されているらしいのでよほど特殊なものでなければ基本的に食べたいものは売っているはずだ。ひとまずたこ焼きを買った俺達だったが玲緒奈が爪楊枝に刺したそれを伸ばしてくる。


「涼也君あーん」


「風邪引いた時とは違って今日は元気だから自分で食べられるぞ」


「涼也君あーん」


「いや、だから別に大丈夫だって」


「涼也君あーん」


 食べさせてもらうのは恥ずかしいため俺は断ったのだが玲緒奈はRPGゲームで正しい選択肢を選ばない限り無限ループするNPCのようにずっと同じ言葉を口にし続けていた。

 多分俺が食べるまで続けるに違いない。だから俺は仕方なく食べる事にした。すると今度は里緒奈が同じようにたこ焼きを差し出してくる。


「涼也あーん」


「えっ、もう勘弁して欲しいんだけど」


「涼也あーん」


 うん、これは駄目だ。里緒奈も先程の玲緒奈と同じく無限ループする気に違いない。俺は本当に厄介な姉妹から目を付けられてしまったと今更ながら思った。

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