第38話 おい、俺が一生誰からも相手にされない前提で話すな


 そんなこんなしているうちに気付けば二時間が経過していた。皆んな満足していたため俺達はルームから退出する。


「ちょうど映画館も近くにあるしこの後四人で何か見ない?」


「あっ、それならちょうど見たい映画があります」


「ちなみに何て映画なんだ?」


 澪が見たいというぐらいだから今流行りの恋愛映画に違いない。俺のような陰キャオタクは多分見ないような映画だろう。


「恋愛トライアングルって映画なんだけど」


「あっ、その映画なら知ってる。うちのクラスでも話題になってたよ」


「私も気になってた」


 俺はピンと来なかったが玲緒奈と里緒奈は知っているようだった。ひとまず俺達は会計を済ませてカラオケ店を出てそのまますぐ近くの映画館の中に入る。もうすぐ上映らしいのでちょうど良いタイミングで来れた。

 俺達は自動券売機で映画のチケットを買った後、売店に並んでジュースを買う。そして劇場の中に入った俺達は予約したシートにゆっくりと腰掛けた。


「やっぱり周りはカップル率が高いな」


「お兄ちゃんみたいなタイプの人達は絶対この映画なんて見にこないでしょ」


「その言い方だと俺には彼女が出来ないみたいに聞こえるんだが」


「逆に出来ると思う?」


「……うん、無理だな」


 悲しい事に俺のような人間は一生年齢イコール彼女いない歴になる気しかしない。そう考えると周りにいるリア充達がだんだんとムカついてきた。今すぐ全世界のリア充が一斉に爆発して欲しい気分だ。


「大丈夫だよ、売れ残った可哀想な涼也君は私と里緒奈が引き取ってあげるから」


「一緒に澪ちゃんも引き取れば完璧」


「おい、俺が一生誰からも相手にされない前提で話すな」


 てか、さらっと澪を巻き込もうとするなよ。この勢いなら本当に澪が剣城家の一員にされても不思議ではない。それからしばらく予告やCMを見て待っているうちに映画館の中が暗くなり本編がスタートする。

 序盤は地味な女子高校生の主人公が双子のイケメン転校生を惚れさせて三角関係になってしまうまでのエピソードが描かれていた。

 中盤では同時に二人から迫られた主人公が激しく葛藤し、悩みに悩んだ末に双子の兄と付き合う訳だがそこで転校生の兄弟仲が悪化してしまう。終盤で和解してハッピーエンドを迎えたが俺的にはあまりスッキリしない結末だった。

 多分人によって好みは別れると思うが俺的には弟キャラの方に共感していたため結局報われなかった事がモヤモヤしている原因だ。


「あの結末は私的にあんまり好きじゃないかな」


「ハッピーエンドって感じはあまりしなかった」


 どうやら玲緒奈と里緒奈も俺と同じような感想を持ったらしい。


「その辺はやっぱり賛否両論あるみたいですよ、見た友達の意見も完全に割れてましたし」


「まあ、そうなるよな」


「私達みたいな双子ってDNAとかのせいか結構欲しいものの好みとかがよく似ちゃうから他人ごととは思えない話だったよ」


「完全に双子あるあるだった」


 俺達は出口に向かって歩きながらそんな話をしていた。やはり玲緒奈と里緒奈は双子のため映画を見て俺以上に色々と感じるものがあったようだ。


「ちなみに玲緒奈と里緒奈は一つしかないものを二人とも欲しくなった時とかはどうしてるんだ?」


「分けられるものなら半分にするけど、それが出来ないものは里緒奈とシェアしてるね」


「うん、私とお姉ちゃんはそうしてきてる」


「へー、喧嘩にはならないんだな。俺と澪はよく喧嘩になってたけど」


 興味本位でしてみた質問の答えを聞いた俺はそう声をあげた。普通なら絶対取り合いになりそうな気がするのだが。


「実は子供の頃はそれが原因でお姉ちゃんとよく喧嘩してた」


「うん、いつもママから怒られてたよね」


「えっ、そうなのか?」


「ちょっと意外です」


 昔からずっと仲が良さそうなイメージがあったため喧嘩している姿なんて全く想像出来ない。


「でも私とお姉ちゃんが二人で争っている間に別の誰かに横から取られたら意味ないって気付いたから」


「うん、それに私達って一卵性だから実質私と里緒奈って同じ人間って思うようになったんだよね」


「私のものはお姉ちゃんのもので逆にお姉ちゃんのものも私のものっていう結論になってからは喧嘩していない」


 なるほど、そういう考え方もあるのか。俺と澪のような普通の兄妹とは違い一卵性の双子ならではの考えだと思う。


「だからさっきの映画も私と里緒奈だったらあんなふうには絶対なってなかったと思うな」


「えっ、それってまさか……?」


「私とお姉ちゃんは二人で同じ相手と付き合う」


 とんでもない事を口にしている玲緒奈と里緒奈だったがその表情は大真面目だった。間違いなく本気でそう考えているに違いない。つまり玲緒奈や里緒奈と付き合う相手は公認の二股をする事になるようだ。

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