第37話 お姉ちゃんとキスしたんだから今更
「じゃあ次は俺の番か」
「えっ、お兄ちゃんがアニソン意外を入れるなんてびっくりなんだけど」
「おい、悲しくなるような事を言うのは辞めろ」
「だってお兄ちゃんだし」
モニターに表示された曲名を見て声を上げた澪に俺はツッコミを入れるがあっけらかんとしていた。いくら何でも俺に対して偏見を持ち過ぎではないだろうか。
「まあまあ、とりあえず涼也君がどんな感じで歌うか楽しみにしてるから」
「涼也、ファイト」
家族以外の前で歌うためかなり緊張している俺だったが後はなるようにしかならないだろう。そんな事を思いながら曲を歌い始める俺だったがいつの間にか緊張はどこかへ吹き飛んでいた。
「へー、涼也君意外と上手いじゃん」
「うん、中々良かった」
歌い終わった俺がテーブルにマイクを置くと二人はそう声をかけてきた。流行りの誰でも知っていそうな無難な曲を選んで歌ったがどうやら好評だったらしい。
「玲緒奈さんと里緒奈さんの前で歌うのはちょっと緊張するな」
「どうせ家族になるんだからそんなに緊張しなくていい」
「うん、私と里緒奈に澪ちゃんの歌声を聞かせてよ」
相変わらず澪を家族扱いする二人だったが指摘しても無駄な事は分かり切っていたため無視した。前奏が流れ始めると澪はマイクを持って立ち上がり歌い始める。
澪は少し前に大ヒットしていたアニメ映画の主題歌を歌っており特別上手いわけではないがとにかく可愛かった。うん、やっぱり俺の妹とは思えない。
「澪ちゃん可愛い」
「うん、このまま私達の部屋にお持ち帰りしたいくらいだよ」
「こら、変な言葉を澪の前で使うな。心が穢れたらどうするんだ」
もしも澪が悪影響を受けてしまったらしばらくショックで寝込む自信がある。澪にはいつまでも純粋なままでいて欲しい。
「やっぱり涼也はめちゃくちゃシスコン」
「心配し過ぎだって、そもそも中学二年生の女の子って男の子が思っている以上にませてるから」
「お兄ちゃんキモい」
ジト目をした三人から集中砲火を浴びせられた俺は黙る事にした。それから俺達は四人でどんどん曲を歌い始める。別々で歌ったり一緒に歌ったりしているうちにあっという間に一時間が経過した。
「歌うのに夢中になり過ぎてすっかり忘れてたけどお昼まだだよね?」
「そう言えばそうだな、元々昼食をかねて遊ぶって話だったし」
「お腹空いた」
「じゃあタブレットから何か注文しましょう」
俺達は歌の合間にそれぞれ注文をする。歌いながら部屋に料理が運ばれてくるのを待つ俺達だったがここでハプニングが起こってしまう。
「あれ? 箸が一人分しかないんだけど……」
「本当だ。私と澪ちゃんピザだから問題ないけど、涼也君と里緒奈は箸を使うもんね」
多分店員がミスをしてしまったのだろう。フロントに電話してもう一本箸を持ってきて貰おうと考え始めていると里緒奈がとんでもない事を言い始める。
「ならこの箸を一緒に使えばいい」
「「えっ!?」」
「なるほど、それは名案だね」
驚く俺と澪に対して玲緒奈は平然としていた。やはり玲緒奈と里緒奈はどこか頭のネジが外れているのかもしれない。
「いやいや、流石にそれは駄目だろ」
「何が駄目なの?」
「だ、だって間接キスになるし……」
いつも通りのテンションな里緒奈に対して俺は少し恥ずかしさを感じながらそう答えた。すると里緒奈はさらっととんでもない言葉を口にする。
「お姉ちゃんとキスしたんだから今更」
「えっ、お兄ちゃん玲緒奈さんとキスしたんですか!?」
「うん、涼也君とは中々情熱的な口付けをしたんだよね」
「……まさか陰キャでぼっちなお兄ちゃんがヤリチンになるなんて」
玲緒奈と里緒奈の発言を聞いた澪は俺に対してゴミを見るような視線を向けていた。まさか最愛の妹からそんな目で見られるなんていくら何でも辛過ぎる。
「って訳だから涼也君と里緒奈で一緒に使っちゃいなよ、何回も店員が来たら気が散るしさ」
「もう決定だから涼也に拒否権はない」
ここからどう頑張っても巻き返せそうなビジョンは見えなかったため諦めるしかなかった。ちなみに里緒奈との間接キスが恥ずかし過ぎて食事の味が全く分からなかった事は言うまでもないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます