第36話 涼也って意外とシスコン

「……よっしゃ、全部終わった」


「涼也もお姉ちゃんもお疲れ様」


「これで一安心だね」


「ああ、マジで達成感が半端ない」


 岡山から帰って一週間近く毎日俺の部屋で夏休みの宿題をやり続けていたわけだが今日ついに全て終わらせる事ができたのだ。


「俺一人やってたら間違いなくまだ半分も終わってなかったと思うしマジで助かった」


「本当里緒奈様々だよ、やっぱり持つべきものは優秀な妹だってよく分かった」


「そんなに私を褒めてもなにも出てこない」


 そう口にする里緒奈だったがどこか嬉しそうだった。やっている最中はめちゃくちゃ大変だったがいざ終わると少し寂しい気もする。まあ、追加で課題を出されるのは絶対に嫌だが。


「やっと自由の身になったわけだしさ、お昼もかねてどこかへ遊びに行かない?」


「そうだな、思いっきり遊ぼうぜ」


「じゃあカラオケに行きたい」


「いいね、楽しそうじゃん」


 玲緒奈と里緒奈はそんな話をしていた。俺は友達がいないぼっちのため家族以外とはカラオケに行った事がない。そのためちょっと抵抗もあったが玲緒奈と里緒奈なら大丈夫だろう。

 そんな事を思いながら出掛ける準備をしていると外出していた澪が家に帰ってきた。午前中は友達と遊んでいたらしいが元気そうだ。


「あれっ、お兄ちゃん玲緒奈さんと里緒奈さんと一緒に出かけるの?」


「ああ、カラオケへ行きたいって里緒奈が言い出したからさ」


 俺の言葉を聞いた澪は羨ましそうな表情を浮かべた。そう言えば澪は歌うのが好きだったっけ。そんな事を思っていると玲緒奈と里緒奈が口を開く。


「せっかくだから澪ちゃんも一緒に行こうよ」


「四人の方がきっと楽しい」


「えっ、良いんですか?」


「うん、澪ちゃんはいずれ私と里緒奈の”いもうと”になるしね」


「おい、だから勝手に他人の妹を盗ろうとするな。澪は俺の妹だから」


 相変わらず二人は澪を自分達の妹として迎え入れようとしているようだ。澪は俺の妹とは思えないくらい可愛いためその気持ちは分かるが渡すわけにはいかない。


「涼也って意外とシスコン」


「お兄ちゃんって昔からこんな感じなので」


「まあ、妹が大好きって気持ちは私もよく分かるけどね」

 澪と里緒奈は呆れたような表情を浮かべていたが玲緒奈は俺に共感してくれた。それから四人で家を出た俺達は駅前にあるカラオケ店へと向かい始める。

 八月の真っ只中という事で外は非常に暑くただ歩いているだけでめちゃくちゃ汗をかいてしまった。そのため四人とも冷房のよく効いたカラオケ店の中へ入った瞬間表情が綻んだ事は言うまでもない。


「それで時間はどうする?」


「とりあえず二時間くらいでいいんじゃない? まだ歌い足りないってなったら延長も出来ると思うし」


「お姉ちゃんに賛成」


「私も玲緒奈さんの意見に賛成します」


 時間も決まったためひとまず受付で手続きを済ませる。そして指定されたルームに入室したわけだが中は結構狭い。だから四人でかなり密着して座る必要があった。


「よし、今日は何を歌おうかな」


「カラオケの時の最初の曲選びって毎回迷いますよね」


「うん、選ぶだけでも結構時間がかかる」


「難しいな」


 俺達はそれぞれスマホや備え付けのタブレットを見ながら歌う曲を考え始める。どんな曲を歌えばウケが良いのか分からないためとにかく悩む。

 本当はアニソンなどの趣味全開の曲を歌いたかったが玲緒奈と里緒奈が知らない曲を歌っても反応に困るだろうし。

 そんな事を考えているうちに玲緒奈が歌う曲を決めたようでマイクを持ってシートから立ち上がる。曲がスタートして歌い始める玲緒奈だったがすぐに残念な気持ちにさせられてしまう。


「おいおい、マジか……」


 玲緒奈が歌い始めたのは今流行りのラブソングだったのだがはっきり言ってかなり、いやとてつもなく下手だったのだ。

 音程が全然掴めていなかったりリズム感が全く無いなどとにかく色々致命的だった。澪も何とも言えない表情を浮かべている事を考えると恐らく同じ気持ちに違いない。


「お姉ちゃんは子供の頃からこんな感じだから」


「なるほど」


「……ちょっと意外でした」


 里緒奈曰くどうやら玲緒奈が音痴なのは昔からのようだ。そんな玲緒奈の歌声をBGMにしながら俺と澪はタブレットで曲を予約する。ちょうどそのタイミングで歌い終えた玲緒奈だったがかなりスッキリしたような表情になっている。


「やっぱりカラオケは楽しいね」


「あ、ああ」


「た、楽しそうに歌ってましたね」


 流石に玲緒奈の歌が下手という感想を面と向かって言う事は流石に出来なかったため俺と澪は適当に相槌を打っておいた。


「じゃあ今度は私の番」


「里緒奈頑張って」


 マイクを手に取った里緒奈だったが玲緒奈とは違って座ったまま歌うつもりらしい。さっきの玲緒奈の件があったため身構える俺だったが良い意味で裏切られる事になる。

 里緒奈は最近流行っているドラマの主題歌を歌ってくれたのだがなんと想像を遥かに超えるレベルで上手かったのだ。


「里緒奈さん凄い……」


「いくら何でもこれは上手すぎるだろ」


「里緒奈は昔から歌が上手いってよく褒められてたから、何故か私は何も感想を言って貰えないけど」


 同じ一卵性の双子なのにここまで差が出る事が不思議で仕方がない。てか、やっぱり玲緒奈は自分が音痴という事を無自覚なようだ。


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お知らせですが、この度本作の書籍化&コミカライズが決定しました!!


小説家になろうへ投稿していた旧版を読んだ出版社様からの打診ですが、商業化は新カクヨム版がベースになります!


そのためWEB版はひとまず書籍1巻分まで投稿して一旦ストップし、書籍化作業が落ち着き次第再開します。

なお、WEB版に関してはもし3巻以上が出る場合でも20万文字前後で完結させる方向で考えています。


引き続きよろしくお願いします!

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