第35話 まさかこんなところで涼也君が手を出してこようとするなんて予想外だったよ

「帰る時間を考えるとそろそろ最後のアトラクションになりそうだね」


「もうそんな時間か、本当にあっという間だったな」


「じゃあ約束通り観覧車へ行こう」


 最後のアトラクションは観覧車にしようと来る前から決めていたため俺達は乗り場へと向かい始める。歩き続けて観覧車の前に到着した俺達だったがそこそこ人が並んでいる姿が目に入ってくる。


「思ってたよりも人が多いな」


「でもせいぜい十五分待ちくらいだからジェットコースターと比べたらめちゃくちゃ早いよ」


「十五分くらいならきっとすぐ」


 ジェットコースターよりも観覧車の方が圧倒的に回転率が良いため待ち時間が短いのだろう。すぐに順番となり係員の指示に従ってゴンドラに乗り込む。ゴンドラはそのままゆっくりと上昇し始める。


「涼也君、里緒奈見て見て。あれって一番最初に乗ったバイキングじゃない?」


「本当だ。あっちにはジェットコースターとかコーヒーカップ、パンダカーも見えるな」


「上から見るとまた違った感じ」


 外を眺めていると今日乗ったアトラクションが次々に目に入ってきて盛り上がっていた。そんな中俺の向かい側に座っていた玲緒奈と里緒奈が突然顔を真っ赤にして黙り込んでしまう。

 一体何を見たのか気になったため後ろを振り返ると隣のゴンドラで抱き合ってキスをするカップルの姿が目に飛び込んできた。


「おいおい、俺達からは丸見えなのにあいつら気付かないのかよ」


「……涼也、なんでそんなに落ち着いてるの?」


「そうだよ、いくらなんでも冷静すぎるよ」


「いや、だってただのキスだし……」


 玲緒奈と里緒奈は不審そうな顔でそう尋ねてきたがスマホ一つで過激な画像や動画を見られる世の中のため普段からそれらをおかずにしている男子達は俺と同じような反応をするはずだ。

 もしあのカップルがキスではなく合体していたのであれば俺も流石に平静ではいられなかったかもしれないが。そんな事を思っていると二人は俺に対してとんでもない事を言い始める。


「ひょっとしてまさかとは思うけど涼也君、誰かとキスした事あるんじゃ……」


「……涼也、本当なの? 嘘や隠し事をしたら恐ろしい事になる」


「おいおい、どうしてそうなるんだよ」


「あっ、もしかして涼也君の初恋の幼馴染が相手なんじゃ……」


「それはちょっと許せない」


 玲緒奈と里緒奈はそんな事を口走りながら俺の座っている席に激しく詰め寄ってきた。険しい表情を浮かべながら前のめりになって顔を近付けてくる玲緒奈と里緒奈だったが突然強風が吹いてゴンドラが激しく揺れる。

 その衝撃でバランスを崩した二人は俺の方へと倒れ込んできた。思わず目を閉じる俺だったが次の瞬間唇と下半身に柔らかい感触が走る。

 目を開けると玲緒奈の顔が目の前にあって唇同士がくっ付いており、里緒奈にいたっては俺の下半身に顔を埋めていた。

 そのまましばらく固まる俺達だったが我に返った俺は慌てて二人を引き離す。もしこんなところを誰かに見られたら間違いなく誤解される。


「……涼也のエッチ」


「まさかこんなところで涼也君が手を出してこようとするなんて予想外だったよ」


「いやいや、むしろ俺が襲われている側だろ」


 まあ、俺がいくらそう主張したとしても多分誰も信じてはくれないだろうが。玲緒奈も里緒奈も顔を赤らめていたため結局ゴンドラが下に到着するまで気まずい空気が流れていた。



「楽しかったね」


「ああ、でも流石に遊び疲れたよ」


「もうクタクタ」


 観覧車を降りた後にそれぞれ土産を買った俺達は岡山ミラノ公園を出て東京へと帰り始めていた。今は新幹線の中で駅弁を食べながら昨日と今日撮った写真を三人で見返している。窓の外には夕焼けの景色が広がっており行きの時とはまた違う良さがあった。


「涼也は夏休みの宿題ちゃんと進めてる?」


「……実はあんまり」


「だよね、私も全然やってないよ」


 俺は昔から夏休みの宿題を後回しにして終了直前になって地獄を見るタイプだが玲緒奈も同類のようだ。恐らく里緒奈は計画的に進めているに違いない。


「涼也とお姉ちゃんは多分ギリギリまでやらないと思うけどそれは良くない、だからちゃんと終わらせられるまで私も手伝う」


「ありがとう里緒奈、助かるよ」


「えっ、いいのか?」


「うん、苦しむ涼也とお姉ちゃんを見たくない」


 里緒奈からの提案は正直めちゃくちゃ助かる。毎年分からない問題のせいでかなりの時間を費やすはめになっているので里緒奈が教えてくれるなら想定より早く終わるはずだ。


「って事で早速明日からビシバシ行く」


「えー、明後日からにしない? ここ二日間で疲れちゃったしさ」


「ああ、俺も休みたい」


「駄目、明日から」


 玲緒奈と一緒に説得を試みたものの里緒奈は首を縦に振ってくれなかった上に夏休みの宿題が全部終わるまで毎日続けると言い始めた。この二日間は楽しかったが明日からしばらく大変になりそうだ。

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