第33話 深く考えちゃ駄目
しばらくして俺達の順番がやってきたため三人でゆっくりとお化け屋敷に入る。中は非常に薄暗く不気味な雰囲気が漂っており辺りからはうめき声のようなものが聞こえてきていた。
「ね、ねえ涼也。そろそろ出口かな……?」
「いやいや、まだ入って一分も経ってないぞ」
「これだけで終わりだったら流石に短すぎるかな」
「全然短くない、もう十分堪能した」
普段のクールな姿からは全然想像出来なかった里緒奈を見てめちゃくちゃ新鮮な気分になっている。これがいわゆるギャップ萌えという奴に違いない。
そんなやり取りをしている最中突然眩しい光とともに雷の音が辺りに鳴り響く。俺と玲緒奈は少し驚いた程度だったが里緒奈には効果抜群だったらしい。
「きゃあぁぁぁぁ!」
里緒奈は悲鳴をあげて思いっきり抱きついてきたのだ。そして俺にくっついたまま離れなくなってしまった。そんな状態のまま通路を進んでいくと胸にナイフが刺さった全身血まみれの女性が通路の脇に横たわっている姿が目に入ってくる。
「り、涼也……起き上がったりしないよね……?」
里緒奈は震える声でそう尋ねてきたが何の意味もなく設置しているとは到底思えない。そう告げようとするが残念ながら間に合わなかった。なんと女性はガバッと起き上がってきたのだ。
「いゃあぁぁぁぁ!」
大きな悲鳴をあげた里緒奈は俺の手を掴むと進行方向に向かって走り出す。手をぐいぐい引っ張られて痛いくらいだ。
「あっ、ちょっと私を置いていかないでよ」
暗い通路に一人残された玲緒奈は慌てて俺達を追いかけてくる。流石の玲緒奈もこんなところで一人取り残されるのは嫌だったらしい。
それからも行く先々で里緒奈は悲鳴をあげ俺に抱きついたり手を引っ張って逃げたり、逆に固まって動けなくなって俺と玲緒奈が手を引くなどを繰り返しながら進んでいった。
「おっ、ついに出口か」
「本当だ、結構長いお化け屋敷だったね」
「だな、想像以上に本格的だった」
「や、やっと外に出られる……」
ようやく出口の明かりが見えたため俺の腕にしがみついていた里緒奈は明らかに安心したような表情になる。だがお化け屋敷は出口が見えて安心したところを脅かしてくるパターンが多いため気を抜くにはまだ早い。
ちょうどそんな事を考えていたタイミングで天井から血まみれの生首が落下してくる。俺と玲緒奈は予想できていたが里緒奈にとっては完全に想定外だったようだ。
「もう無理いぃぃぃぃ!」
里緒奈は俺の腕を引っ張って全力疾走を始めた。女性とは思えないくらい強い力で引っ張られたためよっぽど怖かったのだろう。腕を引っ張られたまま俺と里緒奈はそのままの勢いでお化け屋敷から飛び出す。
「だーから私を置いていかないでってば」
少し遅れてお化け屋敷から出てきた玲緒奈は肩で息をしながら俺達に対してそう声をかけていた。多分慌てて追いかけてきたのだろう。
「……そろそろ離れて貰っても良いか?」
「もう少しこのままで」
相当怖かったらしく里緒奈は中々離れてくれなかった。ようやく里緒奈が立ち直ったため次のアトラクションを探し始める。
「涼也君、里緒奈、今度はあれに乗らない?」
「可愛い、私もあれに乗りたい」
「あれは子供向けだから俺達が乗ると浮きそうな気がするんだけど」
玲緒奈と里緒奈が乗りたいと言い始めたアトラクションはパンダカーだった。言うまでもなく乗り場は幼稚園児や小学生くらいの子供を連れた親子ばかりだ。
「私達もまだ未成年だから子供と変わらないよ」
「いやいや、それは流石に暴論過ぎるって」
「深く考えちゃ駄目」
「いや、でもな……」
難色を示す俺だったが結局二人に押し切られてしまった。やはり二対一になってしまうとどうしても玲緒奈と里緒奈には勝てない。
「涼也、ちょっと乗ってみて」
「俺に乗らせる気なのかよ」
「いいからいいから」
玲緒奈と里緒奈に腕を引っ張られて無理矢理連れて行かれたため俺は渋々パンダカーに跨る。
「……こんな感じでいいか?」
「よく似合ってる」
「うん、今の涼也君はカッコ良さが一割増しくらいに見えるよ」
「思ってもない事を言うのは辞めろ、そして二人揃って俺の写真を撮るな」
美少女の玲緒奈や里緒奈ならともかく俺がパンダカーに乗った絵面はどう考えても見苦しいに違いない。そんな写真を誰かに見せられたら憤死してしまう自信がある。
「涼也君もそれに乗って学校に通学したら友達が出来るんじゃない?」
「遂に涼也もぼっちから脱却できる」
「死ぬほど悪目立ちするし、絶対通学路でお巡りさんに捕まる未来しか見えないんだけど」
パンダカーで学校に通学なんてしていたら間違いなくSNSにアップされるだろう。そんな事になったら末代までの恥だ。あっ、でも多分一生童貞だから恥をかく可哀想な子孫はいないか。
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