第32話 涼也君が口移しで飲ませてくれたらもっと良くなりそうな気がする

 内心で未来を憂いながらしばらく待っているうちにいよいよ俺達の番がやってきた。安全バーが降ろされた後、開始を告げるアナウンスが流れゆっくりと船が揺れ始める。最初のうちは揺れ幅も小さくそんなに怖くは無かったが、次第にその激しさが増していく。


「結構激しい……」


「それがいいんじゃない」


 ちょっと顔をこわばらせていた里緒奈とは対照的に、玲緒奈はかなり楽しそうな表情を浮かべていた。イメージ通り玲緒奈は絶叫系が好きで里緒奈はそうでもないらしい。


「楽しかったね、じゃあ次はコーヒーカップに行こうよ」


「そうだな、二連続で絶叫系が続くのはしんどいし」


「私も賛成」


 バイキングから降りた俺達は次のアトラクションとしてコーヒーカップを選んだ。コーヒーカップはバイキングに比べて人が少なかったためすぐに乗れた。


「コーヒーカップに乗るのなんてマジで久しぶりなんだけど」


「テーマパークに行ってもコーヒーカップに乗るとは限らないもんね」


「私もお姉ちゃんも久々」


「今日は初心に戻って思いっきり遊ぼう」


 しばらくしてコーヒーカップがゆっくりと動き出すわけだが玲緒奈は勢いよくハンドルを回し始める。玲緒奈は結構ノリノリだ。


「ねえ、涼也君と里緒奈も一緒に回さない?」


「分かった」


「ただ座ってるだけなのも正直勿体無いし、せっかくだから俺も回そうか」


 俺と里緒奈はコーヒーカップの中央にあるハンドルをくるくると回し始める。ハンドルに合わせて周囲の景色もどんどん移り変わっていくため思った以上に楽しかった。コーヒーカップをしっかりと満喫した俺達だったが降りたタイミングで問題が発生する。


「……うっ、気持ち悪い」


「お姉ちゃん、大丈夫?」


 どうやら玲緒奈はコーヒーカップの回転で酔ってしまったらしくかなり気分が悪そうだ。俺や里緒奈は平気だったのでもしかしたら玲緒奈が弱いのかもしれない。


「乗り物酔いした時には炭酸が効果的、近くの自動販売機で何か買ってくるからお姉ちゃんは涼也と一緒にベンチで待ってて」


「分かった、ここで玲緒奈と待ってるぞ」


「……いってらっしゃい」


 里緒奈は自動販売機を探しに行った。ひとまず俺は玲緒奈をベンチに横たわらせる。かなりげっそりしており弱々しかった。


「こんな初っ端から酔うとか災難だったな」


「……ちょっと調子に乗り過ぎた」


「今日はまだ長いんだし、あんまり無理するなよ」


 横たわった玲緒奈を励ましていると俺の手を握ってくる。普段なら恥ずかしくてすぐ離すと思うが特別に今回だけはサービスしよう。


「お待たせ、買ってきた」


「……里緒奈ありがとう」


「とりあえずそれを飲んで元気を出してくれ」


 里緒奈からペットボトルに入ったコーラを受け取った玲緒奈はゴクゴクと飲み始める。そのまましばらくベンチに座っていると玲緒奈は徐々に元気を取り戻す。


「だいぶ調子が戻ってきたよ」


「良かった」


「ああ、やっぱり玲緒奈が元気ないと調子狂うし」


「涼也君が口移しで飲ませてくれたらもっと良くなりそうな気がする」


「そんな訳の分からない事を言える余裕があるならもう大丈夫だな」


 俺は少し呆れながらそう口にした。その後はゴーカートや急流すべり、メリーゴーランドを楽しみ今はお化け屋敷の列に並ぼうとしている。


「へー、中々雰囲気出てるね」


「だろ、外観はかなり凝ってると思う」


 ここのお化け屋敷は北欧にある呪われた洋館という設定でかなり不気味な見た目をしている。中から女性客の悲鳴が聞こえてきている事を考えると結構怖いらしい。

 らしいという曖昧な表現をしているのはここのお化け屋敷に入ったのがかなり昔すぎて全く覚えていないからだ。その時に号泣した記憶が朧げながら残っている。


「ところで里緒奈はさっきからずっと黙り込んでるけど大丈夫か?」


「涼也君、実は里緒奈って昔からお化けが苦手なんだよ」


 お化け屋敷に行くと決まった時から一言も喋らなくなってしまった里緒奈を心配した俺が声をかけると玲緒奈が耳元でこっそりと教えてくれた。てっきり里緒奈はお化けなんか全く怖くないタイプだと思っていたので正直意外だ。


「怖いなら別に無理しなくていいぞ、玲緒奈と二人で行ってくるし」


「だ、大丈夫」


「どう見ても里緒奈が大丈夫には見えないんだけど」


「お、お化けなんて非科学的なものはこの世に存在してない。だから怖くない」


 心配して声を掛ける俺に対して里緒奈は早口でそんな事を話していた。うん、これは絶対入っちゃ駄目な奴じゃん。列に並んでいる間に何度か本当に入るのか確認したが

里緒奈は何度聞いても大丈夫としか答えなかった。


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