第29話 もしこの広場でやるなら緑に囲まれた開放的な結婚式になると思うな

 その後は参加しようと思っていたオープンキャンパスのプログラムを特に何事もなく終え、岡山駅から電車で倉敷市方面への移動を開始する。

 次の目的地は美観地区であり江戸時代から明治時代の街並みを保存しているエリアだ。岡山県の中では間違いなくトップクラスに人気のスポットと言えるだろう。

 倉敷駅で電車を降りた俺達は徒歩で美観地区へと向かう。大体十五分ほど歩いたところで白壁の蔵屋敷やなまこ壁などが並び立つレトロモダンな景色が見えてきた。


「へー、ここが美観地区なんだね」


「まるで大昔にタイムスリップしたみたい」


 二人とも物珍しそうな顔でキョロキョロしながらスマホでパシャパシャと写真を撮っていた。夏休み期間という事もあって俺達のような県外から来たであろう観光客の姿が結構目立つ。


「着物を着てる人が多い」


「この街並みで着てたらめちゃくちゃ映えそうだもんね」


「確かこの近くの店でレンタル出来たはずだけど、どうする?」


「そんなの勿論着るに決まってるよ」


「私も着たい」


 俺の提案を聞いた二人はキラキラした目をして即答した。そのため俺達は早速近くにあったレンタル店へと足を運ぶ。

 そして店員からレンタルの説明を受けて着る物を選び始める。最終的に玲緒奈が赤の、里緒奈が青の着物を選んだ。ちなみに俺は紺の着物を選んでいた。

 俺は着物は着る気なんて無かったが二人から頼まれて断りきれなかったのだ。着付けに関してはプロの店員がいたため問題無かった。


「やっぱり着物姿もめちゃくちゃよく似合うな」


「ありがとう、涼也君も似合ってるよ」


「着物姿の涼也は新鮮」


 俺としては普段着慣れない着物を着ているせいで落ち着かないが二人がそう言ってくれるならわざわざ着たかいがあったというものだ。


「よし、じゃあ早速散策しようか」


「うん、出発進行」


「お姉ちゃん、声が大きい」


「ごめんごめん」


 そんな会話をしながら俺達は美観地区内を歩き始める。所々で記念写真を撮ったり店で買い食いをしながら倉敷川沿いをゆっくりと進む。


「……涼也君、これ本当に食べられるの?」


「青過ぎてあんまり美味しくなさそう……」


「確かに初見だとそんな反応にもなるよな、でもちゃんと美味しいから」


 デニムまんという青い豚まんを買って玲緒奈と里緒奈に手渡したところ微妙な反応をされたが味には問題無かったようで最終的には美味しそうに食べていた。

 他にもデニムバーガーやデニムソフトなどが売られていたがそれらも全てデニムまんと同じように青い色をしている。ちなみにここまでデニムを推している理由は倉敷市が国産ジーンズ発祥の地だからだったりする。

 それから世界的に有名な名画が数多く展示されている美術館に立ち寄ったり柴犬カフェで過ごした後、俺達は観光案内所の二階にある休憩所で休んでいる。


「初めて来たけど色々と見どころがあって楽しいね」


「観光地として人気なのも分かる気がする」


「だろ、俺は昔から何回も来てるけど未だに飽きないんだよ」


「確かに涼也君の気持ちわかるよ」


「うん、また来たいと思う」


 玲緒奈も里緒奈もかなり満足そうな表情を浮かべているためここに連れてきたのは大正解だったと言えるだろう。俺も久々に来れてめちゃくちゃ楽しかった。


「そう言えば結婚式ができる場所もあるんだよね、そこにも行ってみたいな」


「オッケー、次はそこへ行こうか」


 玲緒奈が言っているのはツタのからまる赤レンガ造りのホテルを中心にした複合観光施設の事に違いない。あそこも美観地区の人気スポットの一つだ。


「涼也君、ありがとう」


「どんなところか楽しみ」


 休憩を終えた俺達は目的地を目指して歩き始める。観光案内所からは十分掛からないほどの距離だったためすぐに到着した。


「ここは明治時代工場だった場所を再利用してる施設なんだよ」


「言われてみれば確かにちょっと面影がある」


「赤と緑のコントラストが綺麗なところだね」


「ああ、だから美観地区に来たらここは外せないんだよな」


 正面玄関にある赤レンガのアーチをくぐり抜けて建物の中へと入りそのまま広い通路を通り過ぎてそのまま中庭に出る。


「さっき玲緒奈が言ってた結婚式場だけど、今いる中庭広場とか向こうの方にある挙式スペースでやってたはず」


「もしこの広場でやるなら緑に囲まれた開放的な結婚式になると思うな」


「挙式スペースの方も気になる」


「せっかくだしそっちの方にも行ってみようか、確か結婚式がない日は一般開放されてたはずだし」


  早速挙式スペースへと移動して中に入ると辺りを見渡しながら里緒奈が口を開く。


「落ち着いた雰囲気があっていい、レッドカーペットと白いウェディングドレスが絵になりそう」


「さっきのところも良かったけどこっちもめちゃくちゃ良いね」


 玲緒奈と里緒奈は結婚式を想像して楽しそうに盛り上がっていた。それに釣られて俺も自分の結婚式を想像しようとするが全く思い浮かんでこない。

 その代わりに何故か椅子に縛られて玲緒奈と里緒奈から無理矢理婚姻届の記入押印を強要される未来の自分の姿が見えた気がした。絶対そんな事あり得ないため多分遊び疲れてそんなしょうもない妄想をしてしまったに違いない。

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