第28話 もしそうならちょっと許せそうにないんだけど

「ちなみにどこのオープンキャンパスに行ったんだ?」


早穂田さほだ大学と青山あおやま大学、平成学院へいせいがくいん大学の三ヶ所に行った」


「三校ともお洒落でめちゃくちゃ雰囲気も良かったから楽しかったよ」


 うん、見事なまでに全て人気の難関大学だ。改めて玲緒奈と里緒奈とは住む世界が違う事を実感させられた。勝手に落ち込んでいると里緒奈が口を開く。


「涼也が行きたい大学にはちゃんと私が受からせるから任せて欲しい」


「私も精一杯サポートするから安心してね」


 二人はそう声をかけてくれた。里緒奈の実力はこの前の期末テストで既に分かっているため助けてくれるなら百人力だ。


「だから三人で一緒の大学へ行こうね」


「涼也とお姉ちゃんの三人で大学四年間を過ごしたい」


「……えっ、マジで言ってる?」


 突然そんな事を言い始めた二人に俺は思わずそう突っ込んだ。


「ねえ里緒奈、私何か変な事言ったかな?」


「何も言っていないと思う」


 玲緒奈と里緒奈は二人揃って不思議そうな表情を浮かべていた。なぜ俺が声をあげたのか全く理由が分からないらしい。


「大学に入ってもずっと一緒に過ごすみたいに聞こえたから驚いちゃってさ」


「そんな当たり前の事で驚くなんて涼也は変」


「もしかしてまだ寝ぼけてる?」


 二人は大真面目な表情でありとても嘘や冗談を言っているようには見えなかった。と言う事は玲緒奈と里緒奈は本気で俺と同じ大学に行くつもりのようだ。色々と聞きたい事はあったがシャトルバスが大学敷地内に到着したため俺達は降りる。


「キャンパスは思ったよりも大きい」


「……ああ、総合大学でワンキャンパスだからな」


「とりあえず受付けに行こうよ」


 まだ先程の事でモヤモヤしていた俺だったがひとまず受付の会場を目指して歩く。


「なあ、あの子めちゃくちゃ可愛いない?」


「それな、あんな子と一緒に大学生活送りたいよな」


「二人とも凄い美人だけどもしかしてモデルとか芸能人だったりするのかな?」


「普通にあり得そう」


 ただキャンパス内を歩いているだけでそんな男女の声があちらこちらから聞こえてきており、バスの中同様めちゃくちゃ注目を集めている。

 言うまでもなく隣にいるモブキャラBな俺は親の仇を見るような目で見られていた。その後受付を済ませた俺達は大学説明を聞くために多目的ホールへと移動する。


「周りからは色々な方言が聞こえてくるね」


「岡山市立大学は中国地方だけじゃなくて近隣の四国とか近畿地方からも結構オープンキャンパスに来てるらしいからな」


「私達は標準語だからちょっと羨ましい」


「確かに関西弁とか話してたらカッコいいよな」


 生まれも育ちも東京の俺には方言なんてない。ちなみに岡山県が地元の母さんは子供の頃は岡山弁を喋っていたらしいが東京の大学に進学してからずっと都内に住んでいるため今や完全に標準語だ。

 それから一時間近く大学の説明を聞いた後、今度は模擬授業の教室に移動し始める。俺が経済学部で玲緒奈と里緒奈は外国語学部だ。


「じゃあ私と里緒奈はこっちだから模擬授業後に合流しよう」


「ああ、終わったらメッセージ送るから」


「涼也また後で」


 途中で二手に分かれて模擬授業の教室に向かい始める。キャンパス内はかなり広いため授業のたびに移動するとなると結構大変そうだな。まだ合格すらしていないくせにそんな事を考えていた。



 模擬授業後に合流してキャンパスツアーと個別相談会に参加した俺達は現在昼食をとっている。学食もたくさんあったためどこで食べるか迷ったがせっかくなのでオープンキャンパスの案内で人気と書かれていたところを選んだ。


「涼也が参加した模擬授業どんな感じだった?」


「経済学部は株式投資の話だったから結構面白かったぞ」


 何百人も入れそうな講義室での模擬授業は高校までの少人数な教室とは全然違ったためかなり新鮮だった。まあ、大学生になったらすぐに新鮮さは無くなりそうだが。


「外国語学部の模擬授業は全部英語だったんだけど流石に専門用語とかは難しくてよく分からなかったよね、里緒奈は全部理解してたっぽいけど」


「私はよく英語で映画を見てるから分かる」


 クォーターで日常会話程度であれば問題なく出来る玲緒奈ですら難しいと感じる内容の模擬授業なら俺では絶対無理だろう。


「それより初対面の相手に対して連絡先の交換をしようとする奴が続出して驚きだったんだけど」


「毎回断るのも大変だから勘弁して欲しいんだよね」


「私もお姉ちゃんも結構困ってる」


 キャンパスツアーや個別相談の時などとにかく玲緒奈と里緒奈はオープンキャンパス参加者の高校生やツアーガイドをしていた大学生などからこれでもかと言うほど話しかけられていた。

 この数時間だけで片手では数えられないくらい連絡先の交換を求められたのだ。しかも男の俺が一緒にいてもお構い無しだった。多分俺は視界にすら入らなかったに違いない。


「あーあ、もっと身長が高くて超絶イケメンだったら俺も女の子から連絡先交換して欲しいとかって言われたのかな」


 二人があまりにモテ過ぎていて羨ましくなってしまった俺はついそうつぶやいた。身長百八十センチくらいあって超絶イケメンなら女の子との連絡先の交換なんてきっと余裕なはずだ。

 そんな俺が今より遥かにイケている世界線を妄想していると向かいに座っていた玲緒奈と里緒奈の顔からすっと表情が消える。


「……もしかして涼也は女の子と連絡先を交換したいの?」


「連絡先なんか交換して一体涼也君は何をするつもりなのかな……?」


「まさか私とお姉ちゃんには言えないような事?」


「もしそうならちょっと許せそうにないんだけど」


 玲緒奈と里緒奈の言葉遣いはいつも通りだったがとにかく目が全く笑っていなかった。今にも食い殺されそうなプレッシャーを感じた俺は慌てて口を開く。


「……いやいや、今のは冗談だからな。そもそも女の子と連絡先なんて交換しても何を話せば良いか全く分からないし」


「そう、なら良かった」


「もし涼也君が過ちを犯そうとしていたらきついお仕置きをするところだったよ」


 俺の言葉を聞いた二人はいつもの雰囲気に戻った。よく分からないが盛大に地雷を踏み掛けた気がするので迂闊な発言は控えよう。

 学食を出た俺達はその後も引き続きオープンキャンパスの各種プログラムに参加する。相変わらず玲緒奈と里緒奈はナンパされまくっていたが全てあしらっていた。だから俺を呪い殺すような目で見るな。

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