第26話 だから私達と涼也君がディープキスをすれば確実だよ

 東京アクアランドへ行った翌日、俺は朝目覚めた時から喉の痛みや咳、強い倦怠感に襲われていた。恐らく症状的に風邪をひいてしまったと考えた俺は起き上がると机の引き出しから体温計を引っ張り出して脇に挟む。


「……おいおい、三十八度以上あるじゃん」


 体温計に平熱よりもかなり高い数字が表示されていた事を考えると予想通り風邪で間違いなさそうだ。恐らく昨日のプールが原因に違いない。


「玲緒奈と里緒奈は大丈夫かな……?」


 一緒に遊んでいた二人が心配になってきた俺は大丈夫かどうか確認するためにLIMEで体調を聞く事にした。ひとまずメッセージを送信した俺はダイニングの棚から風邪薬と冷却シート、マスクを取り出す。

 そして部屋に戻ろうとしているとパジャマのポケットに入れていたスマホが着信音とともに激しく振動し始める。スマホの着信画面には剣城玲緒奈と表示されていた。


「もしもし……」


「涼也君、体調は大丈夫?」


「声がいつもよりガラガラ」


 電話の向こうからは里緒奈の声も一緒に聞こえてきているためスピードモードで通話をしているのかもしれない。


「……熱が三十八度以上あるから結構キツい」


「そっか、それは辛いね。じゃあ私と里緒奈で涼也君の看病をしてあげるよ」


「準備して涼也の家に行くから少し待ってて」


 なんと二人はそんな事を言い出したのだ。確かに美少女から看病されるというシチュエーションに昔から憧れはあった。しかし実際にそこまでさせるのは流石に申し訳ない。


「二人の気持ちは本当に嬉しいんだけど風邪がうつるかもしれないから大丈夫……」


「でも確か今日は澪ちゃんも朝から居ないって昨日言ってたから家にいるのは涼也君だけだよね」


「そんな状態の涼也を放ってはおけない」


「分かった、じゃあお言葉に甘えてお願いするよ」


 玲緒奈と里緒奈は一歩も引こうとせず断っても勝手にやって来そうな雰囲気だったので看病をしてもらう事にした。

 それから少ししてスポーツドリンクの入ったビニール袋を持った玲緒奈と里緒奈が部屋にやってくる。来るのがめちゃくちゃ早かったため恐らく電話後すぐに出発したのだろう。


「涼也めちゃくちゃ顔色が悪い、今日は絶対無理しちゃ駄目」


「うん、私と里緒奈がしっかり看病してあげるからそこは安心して」


「ああ、マジで助かる」


 起きた直後よりも体の怠さが明らかに増してきていたため二人に来て貰って本当に良かったと今更ながらに思い始めた。


「じゃあ私達は台所でお粥を作ってくるね」


「色々と手間かけさて悪いな」


「気にする必要はない、私とお姉ちゃんがやりたくてやっているだけ」


 そう言い残すと玲緒奈と里緒奈は部屋から出ていく。しばらくベッドに寝転んでうとうとしているうちにかなりの時間が経っていたらしい。お盆を手に持った二人が部屋へと戻ってきた。


「涼也君お待たせ。お粥できたよ」


「熱いからゆっくり食べて」


「ありがとう、美味しそうだな」


 俺は机の上に置かれたお粥を食べるためにスプーンを手に取る。だが倦怠感のせいかスプーンがやけに重くかなり食べづらかった。そんな俺の様子をしばらく見ていた玲緒奈と里緒奈は顔を見合わせた後、とんでもない事を言い始める。


「……ねえ涼也君、私達がお粥を食べさせてあげようか?」


「いや、それは流石に……」


「遠慮はいらない」


 十七歳にもなって食べさせてもらう事に抵抗のあった俺は断ろうとするが二人はかなり乗り気な様子だった。こうなった玲緒奈と里緒奈を止める事がどれだけ難しいか今までの経験から分かりきっていたため受け入れざるを得なかった。


「……じゃあ食べさせて貰おうかな」


「素直でよろしい」


「涼也、口開けて」


 俺は里緒奈から差し出されたスプーンの上に乗ったお粥をぱくりと一口で食べる。その瞬間お粥の優しい味が口に広がった。


「うん、美味しい……けどまだちょっと食べるには熱い」


「じゃあ次はもう少し冷ます」


 そう言い終わると里緒奈はスプーンですくったお粥に対して、玲緒奈と一緒にフーフーと息を吹きかけ始める。そんな二人の姿が妙に色っぽかったためついつい見惚れてしまい気付けば下半身が元気になってしまった。

 幸い布団のおかげでまだ気付かれていないがバレたら確実に変態扱いされるため何としても隠し通さなければならない。


「そろそろ冷めたと思う」


「涼也、あーん」


 里緒奈から食べさせて貰ったお粥は冷めてちょうど食べやすい温度だ。そんなやり取りを何度か繰り返してお粥を完食した。


「あっ、そうだ。風邪って誰かに移したら治りが早いって聞いたことがあるんだけど試してみない?」


「……ちなみにどうやって?」


「風邪は粘膜にウイルスが付着すると飛沫感染する、だから粘膜同士を触れ合えさせるだけ」


「だから私達と涼也君がディープキスをすれば確実だよ」


「いやいや、しないからな」


 ただでさえ熱で苦しんでいるのにとんでもない提案をしてくるなよ。逆に症状が悪化したらどうするんだよ。


「えー、素晴らしい名案だと思ったんだけどな」


「涼也の気が変わったら教えて欲しい」


 そんな言葉を口にしながら里緒奈は水と風邪薬を渡してくる。多分気は変わらないと思うがあえてそれは言わなかった。


「じゃあ涼也君はこれを飲んで今日は安静にしててね。私達はそろそろ帰るから」


「無理は禁物、お大事に」


「二人とも今日はありがとう」


 玲緒奈と里緒奈が部屋から出ていったのを見届けた俺はベッドに寝転ぶ。天井を見ながらぼーっとする俺だったが次第に激しい睡魔に襲われてそのまま意識を手放した。結局俺の風邪は翌日には治ったためせっかくの夏休みを長期間無駄にせずには済んだ。


———————————————————


これにてプール編は終わりです、次話からはお泊まりの話になります!


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